「なんで辞めたのか聞いていいか、嫌なら答えなくていい」
保険はかけた。
答えるかどうかは、胡桃次第だ。
「両親が離婚したからです、お母さんに見せるためだけに書いてたから、見せる人がいなくなっちゃったから」
胡桃は、お母さんが好きなんだな。
「離婚しただけなら、まだあって見せようと思えば見せれるんじゃないか」
「痛いとこつきますね。先輩」
なにか悪いこと言ったか…。
「どこだよ。痛いとこついたって」
「ホントの話をすると、お母さん、もうこの世に居ないんです」
────この世に居ない?
「そうか。でもな、それでも、やめちゃう理由にはならないんじゃないか」
「私、先輩が思ってるよりも、自己肯定感低くて、必要とされてないと、自分の生きる意味とか考えちゃうんです」
驚いた、そんな言葉が出てくるとは思わなかったから。
胡桃は、本屋の小説コーナーに行き着いたかと思えば、近くにあったカゴを持ち、気になる小説を手に取り、表紙とあらすじを見て、それでも気に入るものがあると、ペラペラと数枚めくりながら読み進め、10ページほど読んだかと思うと、カゴに次々と入れていく。
黙って胡桃の話を聞くことにした。
「こんな素敵な本、私に書けると思えないんです。だって、どの本読んでも、本当に素敵で、読ませていただいてありがとうございますって、お礼をしたくなるほど、ファンレター書きたくなるほど、幸せな時間を与えてくれる本ばかりだから」
胡桃は思っているよりも、感性豊かな人なのだと、僕は感じた。
「胡桃、書きたかったら書けばいいんだぞ。書く理由を、わざわざ決めなくてもいい。決めないと書いちゃいけない訳では無いと思う。
かけない理由を当てはめなくていい。
僕が思うのは、胡桃が投げやりになってるとしか思えない。
胡桃は胡桃であって、他の人は関係ない。
もちろん、お母さんに読んで貰えなくなったってことは悲しいことかもしれない。
でもどうだ?お母さんは本当は、胡桃が書きたいなら書いて欲しいって思うんじゃないか?だって読んでくれてたんだろ?」



