「marriage」
自殺しようとする人がいると。
ある人は「そんな莫迦な事はやめろ」「命を粗末にするな」と道徳で止める。
ある人は「自分のために死なないでくれ」とエゴで止める。
ある人は、「死にたいなら、勝手に死ねばいい」と突き放す。
様々な止め方がある。
「ひなこさん。僕は君がどうして死にたいのか、全くわからない。だから、君がしたいのなら、僕は止めてあげれないよ。でも、もし君が死んだら、他の人はどうかわからないけれどね。僕は、君のことを明日には忘れてしまうよ」
「どうして?そんなのってひどい」
「ごめんね。でも、人はね。そんなに覚えていられないものかもしれないよ。身内の死だって3年もしたら、もう忘れてしまうじゃない?他人だったら、もっと早くに忘れてしまうと思うんだ。だから、ひなこさん、君が忘れられたくなかったら、生きたほうがいいね。忘れられてしまうのって、悔しいらしいじゃない?」
「うん・・」
「あの・・花徒くん!絶対に記憶に残らないの?」
「うん。試したことはないけれど。残らないと思う」
「じゃあ、私はどうしたらいいの?」
「どうしても僕に忘れられたくなかったら、僕が死ぬまで一緒にいるしかないんじゃないかなぁ。それはそれで大変そうだけれどね」
こうして、私たちは、付き合うことになった。
それからは
不思議と、どんなことが起きても
死にたいと思うようなことは、一切なくなった。
穴が塞がった。そんな気がした。
死んだら、忘れられてしまう。それはたまらく癪だから。
生きて生きて、最後の瞬間まで、この人の目に焼き付けてから死んでやろうと思った。
そんな私の想いを花徒くんは笑う。
「そんな理由で生きていいの?ひなこさんは、面白いね」
ある時・・
「ひなこさん。ひなこさんは、僕より早く死んだほうがいいね。僕はひなこさんがいなくなっても、図太く生きていけるけど、ひなこさんは、たぶん僕がいないと、無理だから。僕より後に死んでしまったら、きっと不幸だと思ったんだ。違うかな?」
「?!」
「違ったならいいんだ。でも、もしそうだったなら、僕のことを大切にして欲しいんだ。長く生きて、一緒に、皺々のおじいちゃん、おばあちゃんになろう」
「うん」
またある時・・・
花徒くんは、誰にでもいい顔をするものだから、喧嘩の際に、私が殺そうとしたことがありました。
「ひなこさんは、本当に面白いね。ひなこさんは死にたがりだし、殺したがりなんだねぇ。いいよ?僕を殺すかい?君になら殺されてもいいと思ってるんだ」
「いいの?」
「うん。いいよ!たぶん、君ほど、僕の事を愛してくれる人はもう現れないと思う。君のような人を僕は知らないからね」
「死んじゃうのよ?」
「殺したいほど愛してるってことだよね?僕は、そんなに人を愛せる自信がない。でも、そんなに愛してもらえて嬉しいんだ。そんな強い愛情の人と出会える確率なんて奇跡だなって思う。だから、本当は一緒に生きていたいな。君が殺したいと思ったら、いつでも殺してくれていいよ。僕はね。君に好かれた時に決めたんだ。僕の今回の一生は、君にあげるって。だから僕のこの命は、ひなこさん!君のモノだよ」
「うん」
「そうだ。ひなこさん、忘れずに言っておきたいことがあるんだ。もし本当に僕を殺したら、僕の事は、君が責任をもって食べてくれないか?」
「どうして?」
「そしたら、君の一部になって、僕はずっと君と離れずに生きていけると思うんだ。そしたら、君をひとりにして、悲しませたりしないだろ?」
「うん」
またある時・・
「ひなこさん。僕はね。来世はきっと生まれ変わらないと思う」
なにげなく彼が呟いた、根拠のない言葉だった。
けれど、私はなんだか、その言葉を聞いて、涙が止まらなかった。
もうこんな世界に、2度と生まれてきたくはないって思っていたけれど、彼がいるのならもう1回分の一生も悪くない。
そんな風に思っていたから。
「そんなに泣くことがあるかい?まだ、ここにいるというのに。100歳まで生きるとしたらね。まだ、5分の1も僕たちは生きていないんだよ?来世のことなんて、きっと、まだまだずっと先の話さ。100年も一緒にいたら、さすがにきっと君は僕に飽きると思うよ。そしたら、別の人を愛しなよ?できそうかい?」
「・・・・・」
私の表情を見て、彼が呆れたように笑って言う。
「ひなこさん、君は、本当に僕の事が好きなんだね。もう3回も、こうして一生をともにしているのに・・」
https://youtu.be/QfaB8-2DGU0
BGM:4s4ki 「Shirley」
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宮野故鳥(みやのことり)|短編小説家。サーチライター。03年生まれ。山梨県出身。
人間の闇や陰、暗部にライトを照らす点灯屋。暗くダークな作品傾向。
noteにて短編小説を販売中。
1サイト1作品を実施|「野いちご」では「marriage」を投稿。
BIBLE|note
https://note.com/kotori1019/
「Painful(2020)」
作品|2020年度
1「透繭(すかしまゆ)」
2「Angel lie」
3「パパママパズル」
4「アルデバラン」
5「DeepSea-深海-」
6「桃太郎」
7「ORANGE TEA」
8「emergence-羽化-」
9「千年蝶」
10「メンクイ」
11「くものいと」
12|「marriage」
「EPHEMERA(2021)」
作品|2021年度
1|「Amen」
2|「BE SILENT」
3|「PLEDGE」
4|「SCAPEGOAT」
5|「INITIATION」
6|「ORIGINAL SIN」
7|「狡兎死して走狗烹らる」
8|「AUFHEBEN」
9|「SHAPESHIFTER」
10|「RETURN」
11|「SAVIOR」
12|「DEAR.FRANKENSTEIN」
「Sanitarium(2022)」
作品|2022年度
1|「AFTERLIFE」
2|「CAT」
3|「AMBROSIA」
4|「菩提樹」
5|「COUNTDOWN」
6|「奥の闇(ᗺOKUnoYAMI)」
7|「水の星」
8|「BLOOD DONATION」
9|「アカイイト」
10|「ICONOCLASM」
11|「モラトリアム」
12|「ハラムダ」
「Essay(2023)」
作品|2023年度
1|「生得観音菩薩」
2|「シンギュラリティ」
3|「LAST GENERATION」
4|「EAT IN」
5|「托卵」
6|「Taxi」
7|「蜜」
8|「狂人病」
9|「EDICIUS」
10|「ruler」
11|「mistake」
12|「knock on the door」
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自殺しようとする人がいると。
ある人は「そんな莫迦な事はやめろ」「命を粗末にするな」と道徳で止める。
ある人は「自分のために死なないでくれ」とエゴで止める。
ある人は、「死にたいなら、勝手に死ねばいい」と突き放す。
様々な止め方がある。
「ひなこさん。僕は君がどうして死にたいのか、全くわからない。だから、君がしたいのなら、僕は止めてあげれないよ。でも、もし君が死んだら、他の人はどうかわからないけれどね。僕は、君のことを明日には忘れてしまうよ」
「どうして?そんなのってひどい」
「ごめんね。でも、人はね。そんなに覚えていられないものかもしれないよ。身内の死だって3年もしたら、もう忘れてしまうじゃない?他人だったら、もっと早くに忘れてしまうと思うんだ。だから、ひなこさん、君が忘れられたくなかったら、生きたほうがいいね。忘れられてしまうのって、悔しいらしいじゃない?」
「うん・・」
「あの・・花徒くん!絶対に記憶に残らないの?」
「うん。試したことはないけれど。残らないと思う」
「じゃあ、私はどうしたらいいの?」
「どうしても僕に忘れられたくなかったら、僕が死ぬまで一緒にいるしかないんじゃないかなぁ。それはそれで大変そうだけれどね」
こうして、私たちは、付き合うことになった。
それからは
不思議と、どんなことが起きても
死にたいと思うようなことは、一切なくなった。
穴が塞がった。そんな気がした。
死んだら、忘れられてしまう。それはたまらく癪だから。
生きて生きて、最後の瞬間まで、この人の目に焼き付けてから死んでやろうと思った。
そんな私の想いを花徒くんは笑う。
「そんな理由で生きていいの?ひなこさんは、面白いね」
ある時・・
「ひなこさん。ひなこさんは、僕より早く死んだほうがいいね。僕はひなこさんがいなくなっても、図太く生きていけるけど、ひなこさんは、たぶん僕がいないと、無理だから。僕より後に死んでしまったら、きっと不幸だと思ったんだ。違うかな?」
「?!」
「違ったならいいんだ。でも、もしそうだったなら、僕のことを大切にして欲しいんだ。長く生きて、一緒に、皺々のおじいちゃん、おばあちゃんになろう」
「うん」
またある時・・・
花徒くんは、誰にでもいい顔をするものだから、喧嘩の際に、私が殺そうとしたことがありました。
「ひなこさんは、本当に面白いね。ひなこさんは死にたがりだし、殺したがりなんだねぇ。いいよ?僕を殺すかい?君になら殺されてもいいと思ってるんだ」
「いいの?」
「うん。いいよ!たぶん、君ほど、僕の事を愛してくれる人はもう現れないと思う。君のような人を僕は知らないからね」
「死んじゃうのよ?」
「殺したいほど愛してるってことだよね?僕は、そんなに人を愛せる自信がない。でも、そんなに愛してもらえて嬉しいんだ。そんな強い愛情の人と出会える確率なんて奇跡だなって思う。だから、本当は一緒に生きていたいな。君が殺したいと思ったら、いつでも殺してくれていいよ。僕はね。君に好かれた時に決めたんだ。僕の今回の一生は、君にあげるって。だから僕のこの命は、ひなこさん!君のモノだよ」
「うん」
「そうだ。ひなこさん、忘れずに言っておきたいことがあるんだ。もし本当に僕を殺したら、僕の事は、君が責任をもって食べてくれないか?」
「どうして?」
「そしたら、君の一部になって、僕はずっと君と離れずに生きていけると思うんだ。そしたら、君をひとりにして、悲しませたりしないだろ?」
「うん」
またある時・・
「ひなこさん。僕はね。来世はきっと生まれ変わらないと思う」
なにげなく彼が呟いた、根拠のない言葉だった。
けれど、私はなんだか、その言葉を聞いて、涙が止まらなかった。
もうこんな世界に、2度と生まれてきたくはないって思っていたけれど、彼がいるのならもう1回分の一生も悪くない。
そんな風に思っていたから。
「そんなに泣くことがあるかい?まだ、ここにいるというのに。100歳まで生きるとしたらね。まだ、5分の1も僕たちは生きていないんだよ?来世のことなんて、きっと、まだまだずっと先の話さ。100年も一緒にいたら、さすがにきっと君は僕に飽きると思うよ。そしたら、別の人を愛しなよ?できそうかい?」
「・・・・・」
私の表情を見て、彼が呆れたように笑って言う。
「ひなこさん、君は、本当に僕の事が好きなんだね。もう3回も、こうして一生をともにしているのに・・」
https://youtu.be/QfaB8-2DGU0
BGM:4s4ki 「Shirley」
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宮野故鳥(みやのことり)|短編小説家。サーチライター。03年生まれ。山梨県出身。
人間の闇や陰、暗部にライトを照らす点灯屋。暗くダークな作品傾向。
noteにて短編小説を販売中。
1サイト1作品を実施|「野いちご」では「marriage」を投稿。
BIBLE|note
https://note.com/kotori1019/
「Painful(2020)」
作品|2020年度
1「透繭(すかしまゆ)」
2「Angel lie」
3「パパママパズル」
4「アルデバラン」
5「DeepSea-深海-」
6「桃太郎」
7「ORANGE TEA」
8「emergence-羽化-」
9「千年蝶」
10「メンクイ」
11「くものいと」
12|「marriage」
「EPHEMERA(2021)」
作品|2021年度
1|「Amen」
2|「BE SILENT」
3|「PLEDGE」
4|「SCAPEGOAT」
5|「INITIATION」
6|「ORIGINAL SIN」
7|「狡兎死して走狗烹らる」
8|「AUFHEBEN」
9|「SHAPESHIFTER」
10|「RETURN」
11|「SAVIOR」
12|「DEAR.FRANKENSTEIN」
「Sanitarium(2022)」
作品|2022年度
1|「AFTERLIFE」
2|「CAT」
3|「AMBROSIA」
4|「菩提樹」
5|「COUNTDOWN」
6|「奥の闇(ᗺOKUnoYAMI)」
7|「水の星」
8|「BLOOD DONATION」
9|「アカイイト」
10|「ICONOCLASM」
11|「モラトリアム」
12|「ハラムダ」
「Essay(2023)」
作品|2023年度
1|「生得観音菩薩」
2|「シンギュラリティ」
3|「LAST GENERATION」
4|「EAT IN」
5|「托卵」
6|「Taxi」
7|「蜜」
8|「狂人病」
9|「EDICIUS」
10|「ruler」
11|「mistake」
12|「knock on the door」
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