その言葉にぱっと顔を上げると、先輩は、真剣で、でもやっぱりどこかさみしそうだった。
「…」
嘘はつかないって決めたのに、なかなか言葉にできない。
私先輩のことが、やっぱ好きです、好きなんです。
さっき守ってくれた先輩は、今まで見た中で一番かっこよかった。
ああ私、この人が好きなんだ、って、また気づかせてくれた。
「私…」
その先が続かない。
喉が絞まって、言葉が出ない。
先輩は私の目をのぞき込んで、言った。
「ゆっくりでいいから、言えるようになったら話して?言えるまで、待ってるから」
『言いたくなかったら言わなくてもいいよ。言えるまで待ってるから』
「っ…!」
私がパニックになっていたあの時、大好きな香苗が掛けてくれた言葉に似ていた。
「私、っ…やっぱり、先輩のこと、好きです…!」
「本当?」
先輩はすごくうれしそうな顔で、私を見た。
「ごめんなさい…」
「なんで謝るの?」
「だって、私、すごく最低なことした…好きなのに蛙化なんて、ありえないしっ…」
涙をこらえて言う。
と、先輩は、やさしく笑った。
「蛙化したくてしたわけじゃないんでしょ?」
「はい…」
「じゃあ、仕方ないこと。ね?」
にっこりと先輩は微笑んだ。
よく焼けた肌に、真っ白い歯。
それは、私の大好きな笑顔だった。
「帰ってきてくれるって、信じてた。俺、美織ちゃんのこと好きだよ。美織ちゃん以外、かわいいと思わないし」
照れたように言う先輩は、少し、かわいかった。
「私も、先輩以外かっこいいと思いません…先輩の、笑顔、大好きです…」
顔を見合わせて、二人でくすっと笑う。
「照れるなぁ…、ありがとね。…そして、おかえり。」
先輩が両手を広げる。
私はその胸に飛び込んだ。
「ただいまっ…」
ただいま、私の王子様。
【完】
