ただいま、私の王子様。



「ごめんなさいっ…!」

「待って、美織ちゃんっ―」

呼び止めても、彼女は振り向かなかった。
急いで手を伸ばしたけど、届かなかった。

「財布…」

俺が持っているには不自然すぎる、淡いピンク色の財布。
学食へと走っていったから、これがないと困るだろう。

でも、行って話せる気がしなかった。

またさっきのように、拒絶されたらと思うと、ぎゅっと縛られたかのように胸が苦しくなる。

俺は、いつまで待っていればいいのだろう。

失恋したわけでもないのに、なぜか視界がゆがむ。
この感情をどうやって表せばいいのか、わからない。

『自分の口から本人に聞いたほうがいいと思います』

いつか言われた言葉が、脳裏をかすめた。

手には、桜色(かのじょ)の財布。
あの時くれた箱と同じ色の。



チャンスは、今しかない―