「桜木…先輩っ…」

開いた口が塞がらない。
画面から目が離せない。

パズルの最後のピースがはまって、完成した。


「え!?美織知ってんじゃん!」

「あ…まあ、人気、だし」

「本当!?もしかしてラインとかもつなげちゃったりしてる!?」

「んー…ラインは、つなげてないかな…」

嘘をついた。
本当は、だいぶ前、インスタで話したときに交換してもらった。

「ま、先輩だもんねー。むずいよね」

あいまいに笑ってごまかす。

「ねえ、美織って今彼氏いたりする?」

「へ!?や、別にっ」

「この人はいんのかなー。めっちゃ気になる。この人のことだからどうせ彼女美女なんだろうなー。え、美織知ってる?この人、彼女いる?」

心がチクチク痛んだ。ささくれだった指に、消毒液をかけたみたいな痛み。

「いるんじゃない…?」

「えー、残念。誰かわかる?」

「うーん…」

悠乃の口から出される言葉は、本当に消毒液のようだった。
でも、心をきれいにしてくれるわけじゃなくて、ただ、痛みを植え付けてくるだけのもの。
消毒液という名の、針だった。

「そんなわかんないよね、やっぱ。一個上だし、イケメンだからやっぱ美女っぽいよね」

「そう…かな」

「え!?もしかして美織だったりする?」

「え?」

私の頭の中はもう真っ白になっていた。
すぐに返事をすることができなくて、口をパクパクさせてうろたえてしまった。

「え、正解?」

「いや、ちが、別にっ!」

「えー!!ねえいつから!?」

「ほんとちがくてっ、」

「なんでよー、水臭いなあっ。教えてよー」

なんて言えばいいんだろう。
どうすればいいかわからない。

「どっちから?告白」

「っ…私、から…」

控えめに答えると、悠乃は信じられないという顔をした。

「へええ!!やるようになったね!…美織も、知らない間にめっちゃ大人になったじゃん」

「え…?」

「前は全然だったじゃん。恋愛とかキョーミなさそうだったっていうか。成長したね」

少し寂しそうな悠乃の顔を見て、どきりとした。

「ずっと思ってたんだ。なんで美織だけあの高校受かったんだろうって。なんで私落ちたんだろう、って。…でも、やっとわかった。美織はいつでも、頑張ってたわ。さすが。」

「そんなこと―」

「一直線な美織、大好き。頑張ってね、これからも。応援してる」

「え…」

にこっと笑って、悠乃は「さ、歌おー!」とテンションを上げる。

「応援…」

みんなに聞こえないように小さくつぶやいて、考える。

「ごめん、今日ごはん担当だったの忘れてた。また誘って!」

「え!?」
「高三は遊べないよー」
「え絶対また集まろ!!絶対!!」

「うん!」

お金を置いて店を飛び出す。
私、やっぱり―