蛙化なんて、したくなかった。
私がそんなことにならなかったら、今頃すっごく楽しいデートとかに行ってたかもしれないのに。

「なんで私だけ…」

克服法なんて調べたって、無駄。
だってわかんないもん。
好きなのに、なんか変。
自分の気持ちがわからない。

「どうせ治んないよーだ」

嫌になってそういってみたものの、やっぱりどこか引っかかる。
でももう私には、先輩の彼女になる資格なんて、先輩を好きになる資格なんてない。
そうだよ、きっと先輩だって嫌だよ、こんなやつ。

「はぁ…」

気持ちをうまく表現できなくて、腹が立つ。
うー、とうなりながらベットでゴロゴロしていると、急にスマホが鳴った。

「香苗だ」

”ねえ美織ー、突然だけどさ、明日学食行こうよ”
”食べてみたいのー”

”え、私も食べたい!行こ!!”

”やった、じゃあ決まりね”

「学食って、何があるんだろう…」

入学してから行ったことは一度もなくて、ドキドキする。
どんなのを食べようかなぁ、と想像していると、ふと思い出した。

「学校見学で食べた気がする…!!」

その時は、確か、から揚げ定食を食べたような…

記憶のパズルをぱちぱちはめて、あの時を呼び起こす。

確かめちゃくちゃイケメンな人がおすすめしてたからっていう理由で、当時の友達と一緒に食べた。
あのかっこいい先輩が一年か二年だったら、うちら入学したらまた会えるねってなって。

二人で受けたけど、友達は落ちちゃった。

私の分も、かっこいいあの人と仲良くなってきてね、って言われたけど、もう誰かわかんない。
今もいるのかな。

あと一つ、パズルのピースが見つからない。

呼んでも呼んでも、出てこない。

悩んでいると、またスマホが鳴った。

「香苗かな、…え、違う」

スマホの画面には、長らく連絡を取っていなかった友達の名前が表示されていた。

「え、どうしたんだろう。それにしても、なっつかしい…!」

悠乃(ゆの)と表示されたトーク画面を開く。

2年前の3月9日以来、途絶えていた連絡。

中学三年間、ずっと同じのクラスで、ずっと仲が良かったのに。
もちろん喧嘩もしたけど、でもものすごく仲が良くて、何をするにも一緒だった子なのに。

なぜ連絡を取っていなかったかというと、単純に気まずかったから。

そう、悠乃は、”あの”友達。

一緒に、学校見学に来て、学食を食べた、あの友達だった。


”みおり!久しぶり、元気?ねえ今さ、中学の近くのカラオケで仲良かったいつめんといるんだけど来ない?”

”行きたい!今から行ってもいい?”

”もちろん!待ってるー!”




悠乃から教えられた番号の部屋に入ると、あの時の顔ぶれがそろっていた。

「あ、美織!!」
「美織だー!!元気?」
「わ、久しぶり!髪の毛めっちゃ伸びたねー!!」

「わあっ…ちょ、悠乃もほのかも未来(みく)も、くっつきすぎ!ほんと、変わってないなぁ」

久しぶりの再会でうれしすぎて、みんなの口が止まらなかった。
ものすごく楽しくて、なんだか中学生に戻った気分になった。

近況を報告しあって、落ち着いたころ。
悠乃が急に耳打ちしてきた。

「そういえばさ、中三の時に一緒に美織の高校行ったじゃん、覚えてる?」

「もちろん。」

「その時に学食で見つけたイケメン、いるじゃん?あのから揚げの!あれ、誰か分かったの!」

「うっそ、まだいたの!?」

ものすごいフラグ回収で驚いた。

「一個上だよ!気づかなかったの!?」

「えー、顔まで覚えてないよ」

「この人!インスタフォローしちゃった笑」


画面を見た瞬間、私は愕然とした。

これは、偶然なのか、それとも運命なのか。


とびっきりの爽やかな笑顔で画面に映っていたのは、

―紛れもない、彼だった。