「蛙化しちゃった…」
その言葉を聞いた瞬間、あたしは絶句した。
もともと桜木先輩とは知り合いで、先輩の美織に対する想いを知っていたから。
見ていてすごくもどかしくて、早く結ばれればいいのにな、とずっと思っていた。
なのに。
こんなことになるなんて、思いもしなかった。
絶対、美織は喜びと幸せに満ちた表情で帰ってくると信じていた。
だからこそ、言葉が出なかった。
「っ…、引いた?やっぱり、私、最低だよね…」
「ううん、引いてない。大丈夫だよ」
やっと絞り出せた言葉。
何を言うのが正解か、わからなかった。
2年も片思いしてきたのに、神様はなんて残酷なんだろう。
何もできない自分に嫌気がさして、こっちまで泣きそうになった。
かたかた震える美織を見ていることができなかったから、せめて、頭をなでようと、抱きしめようとしたとき。
「っ!やめて、」
美織はぎゅっと目を閉じて、それを拒んだ。
突然のことに頭がついてこなかった。
「あ…ごめっ…」
弱くてか細い、涙交じりの声で、美織は言った。
何されたんだろう。
そんなに、変なことをされたのかな。
美織の心を、あたしは守らなきゃ。
この子を今一人きりにさせたら、きっと壊れてしまうから。
「帰ろっか。あたしの家おいで」
「ごめん…」
会うはずだった彼に断りのラインを送り、あたしは美織と教室を出た。
あとでちゃんと謝っておこう。