我が家の修理途中の門をくぐり、瓦礫の残る家に靴を履いたまま駆け込む。
リビングに行き、まず目に入ったのは、破壊の跡の激しい部屋の真ん中に、片膝をついた先輩の背中と、彼の横に立つ、白髪の少年。
「先輩、マシロ君………」
よかった、無事だったという安堵と同時に感じたのは、濃い、血の匂い。
声が届いているはずなのに振り返らない先輩。
いつもと違う重苦しい雰囲気に、恐る恐る歩み寄る。
「っ!」
視点が変わったことにより、先輩の抱えているものが見えた。
ふわふわの大きな尖った耳をはやした、本来は白であるそれは、全身を暗い赤に染め、ところどころ見える肌の色も生気を失って青白い。
「ヨモギが、俺たちを庇って……」
「っぐっ、……もぎ、ヨモギっ………!」
マシロ君が嗚咽を抑えきれなくなって、泣き叫ぶ。
ホットケーキを盗られた時とはわけが違う。
血まみれのヨモギ君に縋りつき、心を抉るような悲痛な叫び。
近くにあった、整理されていない救急箱の中身が、バランスを崩して転がり落ちた。
私は、動けなかった。
スサノオノミコトは私の肩を抱いて今にも崩れそうな身体を支えてくれる。
そんな中、バタバタと、4人分の足音が入ってきた。
「敵襲か!?」
「なにこれ、めちゃくちゃじゃん!」
「……………」
「手酷くやられたねぇ」
稽古場から出てきたであろう面々が、驚きの表情と共に、辺りを見回す。
「みんな………」
私は助けを求めて、彼らを見た。
「ボクたちは稽古場に居て気づかなかったけど。響が、結界が破られたと言ったから、様子を見に来たんだよ」
「敵襲だと思ってな!」
「実際は、もう終わった後だったようだけど」
彼らは痛々しいものを見るように、先輩の背中を見つめる。
特別頑丈に造っていた稽古場には被害がなかったことは何よりとして。
ちゃぶ台のあった場所に深々と突き刺さる太い槍。
この一撃で、全て吹き飛ばされたというのか。
今は修繕された床下に潜って穂先は見えないが、見えている部分だけでも1メートル少しある。
よくみると、それの中央付近に紙が括り付けられていた。
矢文ならぬ、槍文。
「これ………」
雷地が結び目を乱暴に解き、覗き込む皆に見えるように広げる。
一次試験通過のお知らせ。
以下、書かれている内容は、達筆で真っ黒になり解読できなかったが。
明日の日付と、朝8時、だけは読み取れた。
用紙上部の中央には、簡易的な日本地図のイラストの真ん中あたりに赤くバツが描かれている。
雷地は興味を失ったようにその紙を柚珠に渡すと、槍を引き抜く。
「破魔の槍だねぇ。いくら守護の術が得意とは言え、そこの妖狐にはきつかったろうに。桜陰と鬼が無傷なところを見ると、彼はよくやったと思うよ」
そう言って、彼は破魔の槍を舐めるように見た。
ほかの同盟者はというと。
受け取った文をじっくり読んでいるのだろう、見開いた目が動かない者。
何度も読み返しているのだろう、目が忙しなく動く者。
逃げるように部屋を出ていく者。
「ふっざけんなよ!」
先輩が怒りをあらわに叫んだ。
ビリビリと家が揺れ、隣のマシロ君がびくりと震え、より激しく泣く。
修復中の家の隅が欠けたが、何事もなかったように修復を再開した。
「こんなもののために、ヨモギは大怪我を負ったっていうのかよ……!」
力なく吐き捨てた先輩。
「試験開始まで20時間を切ってるねぇ。通知ついでに戦力を削りに来やがったなクソ親父が!」
雷地が原因の槍を穴の空いた天井に投げ、パチンと指を鳴らす。
雷地の剣が槍を囲むように現れ、槍を滅多刺しにする。
剣はすぐ火花とともに粉々になり花火のように散るが槍は形を保ったまま。
「チッ」
上空に剣を追加召喚する雷地の戦いは長引きそうだ。


