まじないの召喚師3





クタクタのジャージを着て、中学の家庭科の授業で作ったエプロンを身につけ、キッチンに立つ。

蟹と肉というキラキラな高級な食材を前にして、私は頭を抱えていた。



「へるぷみー………」



どうしよう、料理の仕方がわからない。


我が家の台所のはずなのに、見慣れない調味料や調理器具があるぞ。


その辺のスーパーの安物なら、適当に鍋に突っ込んで煮込むだけだが、相手は福引商品、お高めの蟹と肉。

せっかくの高級食材を美味しく食べるには、私には技術や経験がなかった。



「ちくしょー、この場に先輩がいれば………っ」



料理担当の先輩の偉大さを実感している。


今、とっても先輩に会いたい。


まさかこんなに先輩に会いたくなる日が来るとは思わなかった。

頭の中に、先輩のドヤ顔がちらついた。



俺様が必要だって? だったらそれなりの頼み方ってのがあるよなァ? 矮小なお前は桜陰様のしもべですっつって、その場で跪け。

ひざまずけ!

ひざまずけ!



子供たちが参戦したので、頭を振って吹き飛ばす。


違う、先輩が欲しいんじゃない。

先輩の料理の技術が欲しいんだ。


都合のいいこと言ってるのはわかってるけど………。

でも、無い物ねだりしてもしかたない。

三人寄れば文殊の知恵。

この家にはちょうど3人いる。


自称料理の腕は人並み程度、天原月海。

なんでも食べれる丈夫な歯、スサノオノミコト。

得意料理は消し炭岩石、ツクヨミノミコト。


……………だめだー。

3人ならなんでもいいわけじゃないんだよ。

前提として、人並みに作れる人が揃わないと、失敗作に失敗作を掛け合わせて成功なんてあるわけ…………あるのか?

どんな奇跡や化学反応が起きればいいのか見当もつかない。

補い合える部分って何?

どんな暗黒物質でもスサノオノミコトが食べてくれるよって?

高級食材の無駄遣いだよ………。

求めているのはそんなんじゃない。

でも…………。

だけど……………。

…………んがああぁぁぁぁ!



「お困りのようだねぇ」



ツクヨミノミコトがふわふわと漂うようにキッチンにやってきた。



「邪魔するならテレビでも見ていてください」



私は頭を抱えていた手を150度反転させて、しっしっと払う。



「狐のまねー」



ツクヨミノミコトが私の真似で、頭の横に置いた手をパタパタさせる。


耳をピクピクさせる何かしらの動物の真似、じゃないよ。

ツクヨミノミコトに作らせたら、よほど運がなければどんな料理も失敗確定。

それはおにぎりや焼きマシュマロで証明されている。

あれ、このひと運の神じゃないの?

幸、ではないね、そうだね。

不運の方だね、きっと。

だからメシマズなんですよ。



「おや? また失礼な事考えたよね? 私にはわかるんだよ?」



ここは食材の力を信じて、私がやるしかない。

ツクヨミノミコトが作るより絶対マシだから。

素材を活かせない事、お許しください、蟹と肉。



「私は役に立つよ? ほら、幸運を授けよう」



蟹と肉に手を合わせて拝んでいると、ツクヨミノミコトがまた変なことを言い出した。



「これで、この蟹たちは私たちに美味しく食べられることが運命付けられた」



適当言うなよメシマズロリータ人形。

絶対に失敗するからやめてくださいよ。

何か細工された気はしないけど、なんてことしてくれるんですか。

いや、実は言葉だけで、何もやってないんじゃ……。



「なんだいその目は。本当だよ? 神は嘘つかない」



それ自体が嘘であると思うなぁ。

次の瞬間、爆発音と同時に家がビリビリと揺れた。



「うわっ!」



バランスを崩したものの、倒れるほどではない。

テーブルの上の食材たちも無事である。



「おや、敵襲だねぇ。ちょいと行ってくるよ」



白銀の長髪を靡かせてキッチンを出ていくのを見送り、私はまた、蟹と肉に対峙するのだった。



戦闘帰りの彼らに、美味しいものを食べてもらうために……………。


………………。



…………って、違う!


私はキッチンを飛び出して、そのまま玄関に走る。


襲撃だよ!


私が行っても足手まといだろうけど、邪魔だろうけど、放っておけるわけないじゃない。

だって、絶対。


靴に足を突っ込んで、つま先を床で叩きながら扉を開く。



「あははははっ!」



「ぎゃあああああ!」



「ゔわあぁぁぁ!」



「ぶごおおおおお!」



ツクヨミノミコトの高笑いと、顔も知らぬ人たちの汚い悲鳴。

だって絶対、外はめちゃくちゃになっているのだから。