クタクタのジャージを着て、中学の家庭科の授業で作ったエプロンを身につけ、キッチンに立つ。
蟹と肉というキラキラな高級な食材を前にして、私は頭を抱えていた。
「へるぷみー………」
どうしよう、料理の仕方がわからない。
我が家の台所のはずなのに、見慣れない調味料や調理器具があるぞ。
その辺のスーパーの安物なら、適当に鍋に突っ込んで煮込むだけだが、相手は福引商品、お高めの蟹と肉。
せっかくの高級食材を美味しく食べるには、私には技術や経験がなかった。
「ちくしょー、この場に先輩がいれば………っ」
料理担当の先輩の偉大さを実感している。
今、とっても先輩に会いたい。
まさかこんなに先輩に会いたくなる日が来るとは思わなかった。
頭の中に、先輩のドヤ顔がちらついた。
俺様が必要だって? だったらそれなりの頼み方ってのがあるよなァ? 矮小なお前は桜陰様のしもべですっつって、その場で跪け。
ひざまずけ!
ひざまずけ!
子供たちが参戦したので、頭を振って吹き飛ばす。
違う、先輩が欲しいんじゃない。
先輩の料理の技術が欲しいんだ。
都合のいいこと言ってるのはわかってるけど………。
でも、無い物ねだりしてもしかたない。
三人寄れば文殊の知恵。
この家にはちょうど3人いる。
自称料理の腕は人並み程度、天原月海。
なんでも食べれる丈夫な歯、スサノオノミコト。
得意料理は消し炭岩石、ツクヨミノミコト。
……………だめだー。
3人ならなんでもいいわけじゃないんだよ。
前提として、人並みに作れる人が揃わないと、失敗作に失敗作を掛け合わせて成功なんてあるわけ…………あるのか?
どんな奇跡や化学反応が起きればいいのか見当もつかない。
補い合える部分って何?
どんな暗黒物質でもスサノオノミコトが食べてくれるよって?
高級食材の無駄遣いだよ………。
求めているのはそんなんじゃない。
でも…………。
だけど……………。
…………んがああぁぁぁぁ!
「お困りのようだねぇ」
ツクヨミノミコトがふわふわと漂うようにキッチンにやってきた。
「邪魔するならテレビでも見ていてください」
私は頭を抱えていた手を150度反転させて、しっしっと払う。
「狐のまねー」
ツクヨミノミコトが私の真似で、頭の横に置いた手をパタパタさせる。
耳をピクピクさせる何かしらの動物の真似、じゃないよ。
ツクヨミノミコトに作らせたら、よほど運がなければどんな料理も失敗確定。
それはおにぎりや焼きマシュマロで証明されている。
あれ、このひと運の神じゃないの?
幸、ではないね、そうだね。
不運の方だね、きっと。
だからメシマズなんですよ。
「おや? また失礼な事考えたよね? 私にはわかるんだよ?」
ここは食材の力を信じて、私がやるしかない。
ツクヨミノミコトが作るより絶対マシだから。
素材を活かせない事、お許しください、蟹と肉。
「私は役に立つよ? ほら、幸運を授けよう」
蟹と肉に手を合わせて拝んでいると、ツクヨミノミコトがまた変なことを言い出した。
「これで、この蟹たちは私たちに美味しく食べられることが運命付けられた」
適当言うなよメシマズロリータ人形。
絶対に失敗するからやめてくださいよ。
何か細工された気はしないけど、なんてことしてくれるんですか。
いや、実は言葉だけで、何もやってないんじゃ……。
「なんだいその目は。本当だよ? 神は嘘つかない」
それ自体が嘘であると思うなぁ。
次の瞬間、爆発音と同時に家がビリビリと揺れた。
「うわっ!」
バランスを崩したものの、倒れるほどではない。
テーブルの上の食材たちも無事である。
「おや、敵襲だねぇ。ちょいと行ってくるよ」
白銀の長髪を靡かせてキッチンを出ていくのを見送り、私はまた、蟹と肉に対峙するのだった。
戦闘帰りの彼らに、美味しいものを食べてもらうために……………。
………………。
…………って、違う!
私はキッチンを飛び出して、そのまま玄関に走る。
襲撃だよ!
私が行っても足手まといだろうけど、邪魔だろうけど、放っておけるわけないじゃない。
だって、絶対。
靴に足を突っ込んで、つま先を床で叩きながら扉を開く。
「あははははっ!」
「ぎゃあああああ!」
「ゔわあぁぁぁ!」
「ぶごおおおおお!」
ツクヨミノミコトの高笑いと、顔も知らぬ人たちの汚い悲鳴。
だって絶対、外はめちゃくちゃになっているのだから。


