まじないの召喚師3






「大量大量ふふふーん」



ツクヨミノミコトが私の肩に座ってご機嫌に歌う。



「ふんふんふふーん」



ツクヨミノミコトの鼻歌に合わせて、私の体は左右に揺れる。




「きゃっきゃっ、楽しいねぇ、嬉しいねぇ」



「………んんっ」



私は気持ちが浮ついていることを自覚して、咳払いして追い払う。



「月海、風邪かい? 風邪は良くないよ。だけど、私の加護があるから心配はない」



瞬間、北風が止んだ。

いや、正しくは風が私を避けるように周囲を渦巻いている。



「さあ、はやく家に帰って温かいご飯を食べよっ!」



「そうだね…………」



ツクヨミノミコトが風を遮る壁を作ってから、ホワイトアウトするほどの吹雪に見舞われ始めた。

え、さっきまで風強いだけで晴れてたよね。

真っ白なんだけど、雨宿りならぬ雪宿り?したほうがいいのでは。



「大丈夫だよー。まっすぐ歩いて。直進だよっ」



「はいはい、おおせのままに」



ツクヨミノミコトがそう言うなら従おう。

運を司る神だ。

悪いようにはならないはず。

私は両手の荷物を握り直す。


右手の大荷物は、すき焼きセット。

左手の大荷物は、カニ鍋セット。


拾った福引券で、言われるがままにくじを引いた戦利品である。



「お鍋楽しみだねぇー。運が良かったよねー。私のおかげだよねー」



自白した。

百パーセント、ツクヨミノミコトの仕業である。

さて、その荷物のせいでヤジロベエのようになっていた私だが、重さはあまり感じていない。

バランスがとれているということもあるのだろうが、ツクヨミノミコトが浮かせているのだ。


ツクヨミノミコトの荷物なのだから、ご自分で持ってくれたらいいのにと思わなくもないが、それこそ怪奇現象だからね。

いい落とし所ではないだろうか。



「……………手を貸そう」



外出してから今まで大人しくしていたスサノオノミコトがショルダーバッグから顔を出す。



「でも……」



「………この吹雪だ。外からは見えない」



ショルダーバッグから飛び出したスサノオノミコトは高身長美青年になり、ほいっと片手を差し出してきた。

辺りは真っ白で、人の姿どころか、数メートル先すら確認できない。

ならば大丈夫か。



「じゃあ、お願いします」



「スサノオくん、いいとこどりは良くないと思うんだー」



持ち上げようとした荷物が急に重たくなって、体の横でぶら下がり耐える。

肩が、外れるかと思った。



「………どこが」



「食材を手に入れたのは私。感謝されるのは私でしょう。ただ運んだだけで月海に感謝されるのは割に合わないなぁ」



ツクヨミノミコトが私の肩の上で、ゆっくりと脚を組む。



「………ならば、月海に持たせず、お前が運べばいい」



「可愛い私が大きな荷物持つのは、絵面がよくないじゃん?」



「………しらん」



一言だけ発したスサノオノミコトは、鮮やかに、私の両手の荷物を奪う。

そして、流れるように涼しい顔で先を歩いた。



「もーっ、持たないでって言ったでしょ、スサノオくんのバカ」



「………しらん」



ツクヨミノミコトが、すごい勢いで飛んでいきスサノオノミコトの頭上を浮遊し、頭をぽかすか殴る。



「離しなよばか!」



「…………しらん」



こどもの癇癪のようだ。

私は彼らに駆け寄り、殴り続けるツクヨミノミコトを両手で捕獲した。



「離してー」



「だめですって」



両腕を振り回すツクヨミノミコトを胸の前に抱える。



「いくら月海でも、怒るよ」



「それはこちらのせりふです。せっかくのスサノオさんの親切をむげにして、気持ちよくお礼も言えないじゃないですか」



「お礼?」



「美味しそうな食材をありがとうって、お礼も言わせてくれないんですか?」



ツクヨミノミコトは電池が切れたように大人しくなる。

しばらくして、私の両手に、小さな両手を添えてきた。



「このまま、抱きしめていて」



「わかりました」



私は、捕獲の姿勢から、ツクヨミノミコトを両腕で抱え直した。



「荷物持ちのスサノオくんは月海に抱っこしてもらえなくて残念だね」



「…………しらん」



「んふふふっ」



風の音に合わせるように鼻歌を再開させるツクヨミノミコト。

何はともあれ、機嫌が治ったようでよかったです。

それから視界が悪い以外に何事もなく、ツクヨミノミコトの指示通りに歩けば家に着いた。



「ただいま」



冷たい家からは、もちろん返事は返ってこない。



「おかえり、そしてただいま」



腕の中から抜け出したツクヨミノミコトが振り返って返事をくれた。



「ふふっ、おかえり、ツクヨミさん」



「…………ただいま」



両手に荷物を持った美青年スサノオノミコトが入ると、玄関が自動で閉まる。



「おかえりなさい。荷物、ありがとうございました」



「………礼を言われるほどのことでもない」



先程のツクヨミノミコトの発言を気にしているんだろうか。

スサノオノミコトは荷物を持ったまま、スタスタと玄関を上り、リビングへと消えた。



「スサノオもそう言ってるんだ。礼などいらないよ」



してもらった事へのありがとうは大事だと思うが、声には出さなかった。

またツクヨミさんが不機嫌になって振り出しに戻っては困るからね。


あとでこっそりお礼をしよう。

リビングに入ってテレビを付けると、ちょうどこの辺りが映っていた。



「雹を巻き込んだ竜巻とみられる突風が発生し、人や車が巻き込まれたとのこと。現在被害状況を調査中で………」



雪を巻き上げ渦を巻き、道路を不規則に進む映像が流れる。



「……………」



通った道は覚えていないが、右、右、真っ直ぐ、引き返して、左、と指示を出したツクヨミノミコトの声が脳内に再生される。


もしかして、私たちを囲っていたあの吹雪って。


半目でツクヨミノミコトを見るが、始終ご機嫌なツクヨミノミコトは背を向けたまま何も言わなかった。


私はため息をついて、脱衣所に行く。

柚珠のロリータ服を脱ぎ捨て、洗濯機に突っ込んだ。

持ち主の居ぬ間に証拠隠滅。



なんだか無性に悲しくなってきた。