まじないの召喚師3







とっておきのおしゃれな服に着替え、玄関の鏡で全身をチェックする。

茶色のもこもこ帽子をかぶり、桃色のマフラーを巻き付け、黄色のロングコートからのぞく下は、赤のロングスカート。


よし。

私のお気に入り全部のせだ。

リビングに戻り、朝のニュースの流れるテレビを通り過ぎて、かきもちを口いっぱいに詰め込むツクヨミノミコトとスサノオノミコトに声をかけた。



「初詣に行きますが、一緒に行きますか?」



「なんでさ」



ツクヨミノミコトに食い気味で詰め寄られた。


顔が近い。



「なんでって、正月だから、神社に行くでしょ」



「挨拶する神はここにいる。月海が出向く必要はない」



「………我が名はスサノオノミコト。そこのツクヨミノミコトと共に、太陽神、アマテラスオオミカミの兄弟。歴とした神だ」



つまり彼らは、神社まで神に挨拶に行かなくてもここで済ませばいいじゃない。

と、言いたいらしい。


間違っちゃいない。

間違っちゃあいないんだが。

有り難みがなぁ、無いんだよなぁ。

いくら彼らが、地位のある神としても、だ。



「いや、習慣といいますか、正月は初詣に行くものって思ってるから、違和感が。毎年、ここに行ってるんだけど」



スマホのマップ機能で、近くの神社を表示した。

覗き込んだ人形ふたりは、カエルの潰れたような声を出した。



「そこって、オオクニヌシの社じゃん。行かないよ」



「………あれは、多くの社を持っている」



「月海にお参りに来てもらってるなんて、オオクニヌシのくせに頭が高いんだよ。向こうから挨拶に来るのが筋ってもんでしょ」



「忙しいから喚ばないでと言ってたでしょう」



「言ってないから大丈夫。それにあいつらは、月海のためなら仕事も喜んで投げだすさ」



「投げ出させないでください」



「あいつらが勝手に投げだすのさ。こっちは頼んでいないのにね」



「言ってることめちゃくちゃでは?」



「わがままだなぁ。…………だったら、私たちの社に来なよ」



名案だとばかりに頷くツクヨミノミコトは、私の周りを自転しながら公転しだした。



「ツクヨミさんの社かぁ。………どこにありますか?」



マップを縮小していると。



「ここから6時間くらいかかるかなー」



「行けるかあ!」



手持ちのスマホを、あほなことを言う人形の顔面にぶん投げたくなった。

代わりにマップアプリを勢いよく画面から消し飛ばす。


今から遠出なぞできるわけがなかろう。

金もないし。

高校生の極貧お小遣いをなめるなよ。


あれ、でも。



「ツクヨミさんにも社があるなら、行かないといけないのでは?」



イカネさん達は、日付が変わる前に姿を消した。

今の時間は早朝どころか明け方で、参拝客も続々増えるのだろう。

今から向かおうにも、いくら眠らぬ正月とはいえ公共交通機関的には厳しいものがある。


大遅刻じゃん。



「………心配いらない」



「ヒトの姿をとっている間は、神界の記憶を無くしているため、神使が社の管理をする。つまり、今の私とスサノオのところは、神使が働いているということさ」



「…………そういうことだ」



「そっか……」



ツクヨミノミコトの言は信用ならないが、スサノオノミコトがそういうならそうなのだろう。


こうして話していると、記憶の欠けもなさそうで、生まれ変わりという気はしないが、私と合体している以上、生まれ変わりと同じ扱いになっているようだ。

イカネさんも、彼女達がいない間、ツクヨミノミコトを使えって言ってたし、きっと大丈夫だよね。

うんうん、と頷いて、ひとり納得する。



「さて。月海も頷いてくれたことだし。出かける前に、服を着替えてもらおうか」



「え? いつの間に出かけることになってた?」



「え? 頷いてくれたのは嘘だったの?」



よよよと泣き崩れるツクヨミノミコトに、申し訳なくなるのを、首を左右に振って吹き飛ばす。

気をしっかり持て。



「そーだよねー。月海は一度引き受けたことを覆すような、悪いことする薄情なこじゃないもんねぇ」



勘違いされたようだ。

そういう意味で首を振ったんじゃない。


言い訳するより先に、ツクヨミノミコトがたたみかけてくる。



「オモイカネにしたことを、私にはしてくれないなんて、差別する子じゃないもんねぇ?」



ちらっ、ちらっ。


顔を塞ぐ両手の指の隙間から、こちらを伺うツクヨミノミコトの目に光るのは、獲物を狙う鋭い光。

涙も出てないのかよ。

それで泣き落としなんて、しようと思えましたね。

イカネさんとツクヨミノミコトでは、関係性が違うのよ。


言うと、また面倒な問答が始まるのだろう。



「……………はーっ…………わかった、わかりました」



特に用事があるでもなし、いいや。

心にちくちくと攻撃を受けるくらいなら、それをずっと続けられるくらいなら。

今日はツクヨミノミコトに付き合おう。

サービスデーで、感謝デーで、なんか特別デーだ。(やけくそ)



「お願いを聞いてくれる月海だいすきー。じゃー早速、お着替えをー」



「これでいいよ」



これ以上、乗せられてなるものかと抵抗を試みるも。



「せっかくのお出かけなんだ。私に月海を着飾らせておくれ」



「着替えるのも面倒だし、お気に入りの服だから、このままでいいんだけど」



「私が選ぶの!」



「…………頼む。ツクヨミに選ばせてやってくれ」



今度こそ涙目のツクヨミノミコトはどうでもいいが、誠実なスサノオノミコトに言われたら叶えてあげたいと思わせる。



「…………わかりました」



「やった! じゃあ、持ってくるから、そこで待っててよね!」



ツクヨミノミコトはリビングを飛び出して行った。


全てがツクヨミノミコトの都合のいいように進んだ気がする。


にしても、中立のスサノオノミコトが、ツクヨミノミコトの味方をするなんて珍しい。

私の視線に気づいたのか、スサノオノミコトが気まずそうに目を逸らす。



「…………すまない」



「ツクヨミさんのわがままにも困ったものですよね」



「…………すまない」



同意を示すように苦笑して言うと、重ねて謝られた。


出来の悪い兄弟を持つと大変だ。


心の中で苦労性のスサノオノミコトを応援していると。



「………その服だけは、いただけない」



「ん?」



何かボソッと言われたが、聞き返しても応えが返ってくることは無かった。