まじないの召喚師3



次に目を覚ました時は、薄ぼんやりとした空からふるいにかけたような粉雪が降っていた。



「……………寒っ」



私は布団から出て、手早く着替える。

両腕を摩りながら部屋を出て、一階のリビングに入ると、そこにおわした天女が微笑む。



「おはようございます。月海さん。ご飯できてますよ」



暖かな部屋に、甘い香り。

イカネさんの手には、大きな皿に、パンケーキが3段ほど積まれ、はちみつまでかけられている。

生クリームやアイスクリームも乗った、豪華仕様だ。


贅沢な朝食と天女の給仕。

楽園はここにあった。


席に着くと、目の前のテーブルに豪華パンケーキが置かれる。



「いただきます」



フォークとナイフを突きいれ、トッピングのたっぷりかかったふわふわパンケーキを口いっぱいに頬張る。



「んんーっっ! ひあわへ………」



口の中が一瞬で楽園へと変わる。

落ちそうな頬に手を添える。

噛むたびに口から溢れる幸せは、全身へと広がり、溶かしにかかってくる。



「うふふっ、光栄ですわ」



「月海、騙されないで。いい人ぶって、人を思いどおりに操るのがオモイカネのやり口だよ」



ツクヨミノミコトがぺたんこのパンケーキをワイルドにかじり、フォークを向けてくる。



「ふふっ、人形の言葉はお気になさらず」



「ごめんね、私、イカネさんほどツクヨミさんに信用がないの」



「雛鳥の刷り込みじゃん! 私が先に出会っていればっ!」



「………ないだろう?」



「スサノオ君、きみ、オモイカネの味方するの?」



「………事実。己を見つめ直せよ」



スサノオノミコトの手には、ぺたんこのパンケーキを重ねたどら焼きがあった。



「スサノオくん、餌付けされてんじゃないよ」



「………お前も食べているだろう」



「次は私の手料理を振る舞うから、私に味方しなさい」



「断る。………おまえのは食べ物ではない」



「スサノオくんまで、オモイカネの見方をするんだね」



「………それとこれとは話が違う」



「オモイカネのくせに、オモイカネのくせに………!」



ツクヨミノミコトはやけくそのようにパンケーキを噛みちぎる。

咀嚼して飲み下し、また次を悔しそうに顔を歪めて噛みちぎった。



美味しいんだね。

認めたくないんだね。



「喜んでもらえてなによりですわ。いつも火宮が作っているでしょう。胃袋を掴まれてしまったのではないかと………」



イカネさんの微笑みに陰が落ちた。

いつもの微笑みを見せてほしくて、勢いに任せて彼女の手を両手で包み込む。



「イカネさんの手作りってだけで、私にとってはご褒美ですから!」



目を丸くするイカネさんに畳み掛ける。



「先輩は確かに、料理上手かもしれません。ですがイカネさんの作ってくれたこれは、先輩より美味しいし、なにより愛がある!」



「代わりに、私とスサノオは失敗作を食べさせられてるんだよ。この、焦げと粉っぽいのともさもさでぺたんこの山が見えるかい?」



「もうっ、月海さんったら。うふふ」



「イカネさんが作ってくれた事実だけで、私にとっては特別で格別で、なんでも美味しく感じるんですよ」



「無視してくれる月海には、このオモイカネの作った失敗作をあげよう。私にとっては不味いものだが、月海にとっては美味しいんだろう?」



「…………うふふふ」



「むぐぐぐー!」



オモイカネは照れたように頬を染め、誤魔化すようにノールックで、潰れたパンケーキをツクヨミノミコトの顔面にパイ投げのごとく押し当てた。



「ぼへっ、ぺっ。生焼けで中身ドロドロじゃん。ベタベタする」



「………腹に入れば同じだろう」



「バカ舌スサノオくんは黙ってて」



「………これでも味には五月蝿い」



「説得力ないんだよ。…………でも、そうだねぇ」



視界の端で、ツクヨミさんはニヒルに笑い、ぺたんこのパンケーキに、大量のケーキシロップをかけた。



「これでも食らえ!」



大量のケーキシロップの乗ったパンケーキは、イカネさんの後頭部を狙う。

次の瞬間、体格差で有利を取るイカネさんが、ツクヨミノミコトの人形ボディを掴み、シロップ大量パンケーキに押し付けた。



「食べ物で遊んではいけませんよ」



「ふがあぁっ!」



断末魔とともに、ツクヨミノミコトはパンケーキのトッピングとなり、皿の上に墜落した。