翌日の話し合いは、思ったよりも難航した。
同盟者たちが気絶したまま起きなくて、話し合いができなかった、わけではない。
ごねたのだ。
イヤイヤ期かと見まごうほどに、それはもう見事にごねたのだ。
「だからですね………」
「知らないよ」
「心当たりないな!」
「えっと………」
「ボクしらなーい」
「………僕の作った記憶に効く薬、飲んでよ」
「その……」
「俺様の命令が聞けないのか?」
このやりとりを何度したことか。
赤ん坊もびっくりの手のひら返し。
自分から、強者に従う、的なことを言っておきながら、いざ負かしたらこれだ。
言ってない、だとか、勘違いじゃないか、だとか、証拠を見せてみろ、だとか。
私は、記憶力に自信がある方じゃないから、そうかも、とは思わなくないが、違うだろう。
根拠としては、雷地の背中に回った右手にある物。
ボイスレコーダーのように見受けられるのだけど、その中に証拠が入ってるんじゃないかな。
まったく、人のことを嘘つき呼ばわりして、不利な証拠の提示はしないなんて。
言葉には責任をとりたまえよ。
なんて、口下手人見知りな私は、怖くて言えないんだけどね!
心の中で、ふんす、と鼻を鳴らす私と同じ気持ちらしいツクヨミノミコトが適当に彼らを挑発した。
「もういちどやるかい? 何度戦っても同じだろうけどさ」
オモイカネ、オオクニヌシ、アメノウズメ、スクナヒコナが神界に帰ってこちらの戦力が落ちたからと言って、戦えないわけじゃない。
向かってくるのを期待するように、お人形さんは不気味に微笑んだ。
「たとえ三貴神だとしても、今はお人形でしょー!」
「壊す!」
「ロリータはボクと響だけでいいの!」
「………めんどくさ」
「俺たちを怒らせたこと、後悔しろよ」
ツクヨミノミコトをただの人形と侮った同盟者たちが一斉に襲いかかる。
「甘いねぇ」
ツクヨミノミコトが指を真横一文字に一振りすると、覆い被さろうとしていた術ごと、同盟者たちは壁を破り、空の彼方に吹っ飛んだ。
壁の穴が、仕方ないなぁ、とでも言いたげにゆっくり塞がっていく。
「さて。お茶にしようではないか。私もマシュマロが食べたいな」
長い銀髪とお姫様のようなスカートを靡かせ、振り向いたツクヨミノミコトは美しい。
騙されるな、ツクヨミノミコトが美しいのではなく、ツクヨミノミコトの憑依している人形が美しいのだ。
製作者の勝利だ。
そんな人形が、棚から私のマシュマロを引き寄せる。
「人のマシュマロ!」
「月海のものは私のものさ。何も問題は無い」
「問題大有り! それは私のです! イカネさんと食べるとっておきなの!」
取り返そうと手を伸ばすも、花びらを掴むようにふわりとかわされる。
私の抗議を無視して手の届かないところへ逃げたツクヨミノミコトは、殺意をたぎらせる子どもふたりに微笑みかけた。
「きみたちも、ご主人様の帰りをマシュマロでも食べて待とうではないか」
子どもたちへの賄賂に、人のマシュマロを使わないで欲しいんだが。
「いやだ! おまえはてきだ!」
「てきだ!」
「ご主人様をかえせ!」
「かえせ!」
「おや? きみたちの好きなマシュマロだよ?」
「オレたちはおまえなんかにくっしない!」
「くっしない!」
白毛ふたりの反発に、私はよくやったと背中に隠してガッツポーズをした。
銀髪は無害そうな顔をやめ、悪どくも優雅に高笑う。
「あははっ、おこちゃま妖怪のくせに。私に逆らってくるか。………でも、うん、そうだねえ。先輩に可愛がられているのが、前々から気に食わなかったんだぁ」
言うが早いか、ウインクひとつで、白毛ふたりはスリングショットの玉のように、勢いよく窓を割って飛んでいった。
先輩たちと同じ軌道を辿った彼らを、ツクヨミノミコトは未練の残る寂しげな眼差しで見送った。
「将を射んと欲すれば、先ず馬を射よ。なんて、うまくいかないねぇ。お子様は御し易いと思ったんだけどなぁ」
「ひどいことするわ………」
無理に理由をつけなくても、仲良くなりたいならなりたいって言えばいいのに。
もしかしなくてもツクヨミさん、友達作るの下手でしょ。
「………いつものことだ。気にするな」
スサノオノミコトは、瓦煎餅を手刀で割り、マシュマロをはさんで口に放り込んだ。


