「うふふっ。コンビネーションのいい訓練になったのではないですか?」
「ははっ。冗談は顔だけにしなよオモイカネ」
「まったく、いつまでも反抗期なんですから………」
「わからないかい? お姉さまのお人形さんは引っ込めっていってるんだ」
「ふふっ、お人形さんは貴方でしょう」
「自覚がないのかい、哀れだね」
「うふふふふ」
「あはははは」
美女と美少女ドールが顔を突き合わせる光景は高尚な絵画のよう。
なのだが、会話が不穏だ。
二人を交互に見て、どうすべきか悩んでいると、高身長美青年スサノオノミコトが私の肩に手を置いた。
「気にするな。いつものことだ」
「いつもって……」
「気にするな」
スサノオノミコトは、それ以上語ることはなかった。
気にならないと言ったら嘘になるが、話したくないことを暴く必要性はない。
誰だって、隠し事や話したくない事、なんか気に食わないなんてことだってある。
彼らから言ってくるのを待てばいい。
頭を切り替えて、呼び出しに応じてくれた3柱に向き直る。
「助けてくれて、ありがとうございました」
でも………。
と、私は無言で同盟者たちを横目で見る。
常磐は、座るだけでもいっぱいな木造の牢に押し込められている。
雷地は黒焦げになり、分厚い氷の中に閉じ込められている。
柚珠は、オルゴールの上の機械仕掛けの人形のように回り続けている。
響は、酩酊状態で焦点も定まらず立ち上がれない。
先輩は血溜まりに沈み、死にかけていた。
ヨモギ君、マシロ君は、宙に浮きグルグル回り続ける。
圧倒的力量で無力化させられた同盟者たち。
やりすぎじゃあないかな。
そんな私の思いを察したように、ツクヨミノミコトとイカネさんが肯定してくれる。
「いいんだよ。これできみに逆らうやつはいなくなる」
ヨモギ君とマシロ君は急上昇し、肉眼では確認できない距離まで行くと、地面スレスレまで急降下。
そしてまた急上昇する。
本人たちはキャッキャと楽しそうだ。
愛しのご主人様の惨状に気づいていないのかな。
「実力が全てとおっしゃったのは彼らの方。ならば今後は潔く月海さんに従うことでしょう」
閃光が迸りヒビの入った氷柱が、再び厚い氷で覆われる。
雷鳴も閉じ込められ、発光するだけの綺麗なオブジェと化した。
「もとよりそのつもりで儂らを召喚したのじゃろう」
木製の牢がへし折られたそこから芽を出し、一瞬で成長。
囲いを強化するように絡みつく。
四角かった木造の牢は編みかごのように玉になり、ひとりでに跳ねて、転がった。
「あのお子様との勝負もついてなかったところだし、ちょうど良かったさね」
比礼が巻きつき萌え袖となっている片手を頬にあて、ほう、と悩ましげな息をつく。
その色香にあてられたように、グルグル回るだけだった柚珠が、ブリッジ走行でシャカシャカ動き回り、千鳥足の響に激突してお互いに吹っ飛んだ。
「おやおや。アメノウズメよ、私の獲物に手を出すのですか」
「羽虫の坊やがのんびり遊んでいるからよん」
「理由になっておりませんよ」
アメノウズメはスクナヒコナから瓢箪をとりあげ、中身をがぶ飲みする。
プハーッ、とおっさんのような飲み方をするアメノウズメ。
やれやれと肩をすくめるスクナヒコナの目の前で、柚珠と響はもつれるままにキャットファイトを始めた。
「……桜陰少年は見込みがある」
混沌とした全体を眺めて、高身長美青年のスサノオノミコトはフッと笑う。
「……我が剣技に追いつくほどの腕前。そのせいか、ついやり過ぎてしまった」
が、その認めた相手は視界の隅の方で瀕死。
大量の血を流し、地に伏してぴくりともしない。
まだ生きてるよね。
早く治療してもらえるように、スクナヒコナにお願いしないと。
「っ!」
一歩踏み出したところで、スサノオノミコトに左腕で強く抱き寄せられた。
「何!?」
身体を固くして、スサノオノミコトを見上げると、彼の振り上げられた右手には、鋭く光る小刀が握られていた。
「今ので決めるつもりだったんだがな。流石は戦神」
「……驚いた」
「死んだふりは、慣れてんだよ!」
スサノオノミコトが視線を向けた先。
血まみれで死にかけていたはずの先輩は、うつ伏せの状態から抜き身の刀を支えに立ち上がった。
赤いつばを吐き捨て、空いた方の手でポケットから取り出したコインを小刀に変える。
「……手加減したとはいえ、一晩は動けないはず。見事」
「うるせえ。本気で来いよ。叩き斬ってやる」
手負いの獣のような先輩の獰猛な眼差しを、感情の見えないガラス玉の瞳で見返すスサノオノミコトは、私に回した腕を解放し、庇うように前に出た。
スサノオノミコトの右手の小刀はただのコインに戻っている。
「………いいだろう」
スサノオノミコトの手から、空高く放り投げられるコイン。
同時に、スサノオノミコトの右手には水でできた剣が現れ、先輩は刀を引き抜き構える。
月光を反射し、花びらのように落ちてくるそれが、地面に接触した瞬間。
2人はお互いに向かって走り出し。
「おバカー!」
接触の直前、ツクヨミノミコトの怒声とともに地に埋まった。
「先輩が死んでしまう! 分かりなよスサノオ!」
人形ツクヨミノミコトが、半分以上地面に沈んだ高身長スサノオノミコトの背中を踏みつける光景は滑稽である。
「うわあああああん! ご主人様ぁぁ!」
「うわあああああん!」
子どもたちは先輩に駆け寄り、大泣きしながら回復術をかけた。
ぼんやりと先輩が光り、その輝きから傷がいかに広く、深かったかが見て取れた。
強がってたけど、ほんとは重症だったんじゃん。
ヨモギ君の治療が終わると、先輩は穏やかな寝息を立てた。
命に別状はなさそうだ。
「……他の者たちも、気絶しているようだ」
「力を使い果たしたようですね」
いつの間にか静かになっていた同盟者たち。
ある者は目を回し、ある者は幸せそうに、だらしない顔でよだれをたらしている。
こちらの苦労も知らずに。
誰のせいでこんなことになったと思っているのかと、怒りが湧いてきた。
「はいはーい、ツクヨミちゃんにお任せだよ」
愛しの先輩を傷つけたスサノオノミコトへの抗議は済んだらしいツクヨミノミコトが、気絶した彼らを浮かせ、窓から個々人の部屋に投げ入れた。
「今日のところはどちらが上かをはっきりさせたので、よしとしましょう」
「話し合いはまた明日だねえ」
イカネさんと、ツクヨミノミコトが揃って悪い顔をしている。
ここだけ切り取ると、とても仲良しに見えるのだが、それを言うと揃って怒りだすんだろう。
全く、何が気に食わないというのか。
なぜか犬猿の仲なふたりを、ガテン系お兄さん、お色気お姉さん、妖精さんが、無感情に見ていた。


