まじないの召喚師3




そんな私に、スサノオノミコトが助言をくれる。



「おまえなら、オモイカネを喚び出す際。姿を見たい、会いたい、来てほしい、そういったことを強く思うと、その願いを聞き届けたオモイカネが現れる」



「スサノオ、その例えはやめよう。背筋がひゅっとなるから」



無機物人形ボディーにひゅっとなる背筋があるんですね。



「………主導権は力の強い方にある。いくら願っても、オモイカネが拒否すれば現れることはないだろう。言い換えるならば、呼び鈴を鳴らせば家の住人が出てくるが、出ずとも、力ある者は鍵をこじ開けて強引に連れ出すことができる」



「ひどい例えだわ」



なぜ私の周りはこうも物騒なのか。

スサノオノミコトは、もう少し平和的だと思っていたのだけど。



「………そこのが、タケミカヅチの雷、イワナガヒメの岩を召喚してみせたのは、扉を開き奴らの貸し出す力のみを呼び出したに過ぎない」



ご近所さんに庭で採れた野菜をお裾分けしてもらう感じかな。



「………本人を喚ぶより、力の一片や分身を喚ぶ方が、消耗は少なく済む」



「私はここに居る。月海は私に願いを届けなさい」




銀の髪が月光を淡く反射する。

ツクヨミノミコトは背を逸らして、拳を胸に叩きつけた。

神聖でありながら頼もしい。

俺に任せとけのポーズだ。


細められた金の瞳が、叶えてやるから、声を届けろと言っている。

ならば、私のすることはひとつだけ。

振り上げた両手を胸の前で組み直し、深く息を吸う。
オオクニヌシの技を思い出しながら、祈った。



「家を元通りに直してください」



瞬間、地面が揺れた。


先輩は刀を振るのをやめる。



「お? 崖が埋まったな」



天原家に大きく入った亀裂は、地下から迫り上がる大地によって元通り。



「あぁあ。俺の術が消されちゃったぁ」



「むっ! これから建築を始めるところだったのだが!」



大量の甲冑と、レンガサイズになった岩が砂に変わり風に攫われる。



「イヤーっ! ボクと響の傑作がー!」



「………毒の採取はしてある」



危険植物とその体液は枯れ、埋め立てられた。


更地となったそこに、木の柱が建ち、床、壁と、気付けば見慣れた家が出来上がった。



「…………で、出来た………」



「………月海、きみは…………」



ツクヨミノミコトは目を見開いてこちらを見る。


私には出来ないとでも思ってましたか?

家を元通りにしたい強い気持ちは強いわ。


よしっ、よしっ。

と、拳を胸の前で振り回して、大技の成功に喜びをかみしめる。

今ならなんでもできる気がするわ。


そんな私の感動に水を差す者たちがいる。



「ひどいっ! 観葉植物くらい、どこの家だって植えてるでしょっ!」



ぶりっこを捨て、悪鬼のような形相で柚珠にキッと睨まれるが、私も負けじと睨み返す。



「危険植物はどこの家にもないです!」



虫を一瞬で蒸発させる溶解液を出す植物なんて、民家にあってはなりません。



「甲冑は家にあっても不思議じゃないよぉ」



「うちは西洋のお屋敷じゃないです!」



「木の家より、石の家の方が頑丈だ!」



「うちは西洋のお屋敷じゃないです、木造で十分!」



木の家よりレンガの家の方が丈夫って?

三匹の子豚は、自分で家を壊さない。

もっと普通に暮らして。



「………塔や牢屋があった方が雰囲気が出る」



「うちは西洋の以下略!」



響君まで悪ノリしないで。

一般民家に何の雰囲気を求めているの。



「次はもっといい城を建てよう!」



「だめですってば!」



浄土寺筋肉達磨常磐は話を聞いて。

うちは西洋のお屋敷じゃないって、何度も言いましたよね。



「屋敷はダメだけど城ならオーケーってことはないですから! 直ったからって、壊していいわけじゃないですからね!」



「スクラップアンドビルド!」



「私の家!」



家を庇うように、私が両手を広げ割り込んだことで、常磐は振りかぶった拳を止めた。

風圧で、分厚い雲の一部が裂かれたように穴が空いて星が覗く。

抵抗しないと、彼らに任せると一晩でとんでもない要塞が出来上がってしまう。



「あれはダメこれもダメって、わがままはよくないぜ」



「先輩こそうるさいです。ここは私の家です!」



「私の家私の家って、今はここのみんなで住んでるんだからさぁ」



「先の戦いを見据えて、ちょっとくらい、ボクたちがリフォームしたっていいじゃんー?」



「………もっと、迎撃能力を上げる」



「俺たちに任せろ!」



うまい説得の言葉が出てこなくて、おまけに語彙も少なくて、頭も回っていないだけ。

なのに、私が聞き分けのない子みたいに言わないで。

私家主、あなた達居候。

1対5で四面楚歌だけども。

押され気味だけど、負けてなるものか。



「リーダーは私です!」



「お飾りのリーダーは引っ込んでてっ!」



「強い者が正義だよん、月海ちゃん」



「つまり、俺に任せろ!」



「いいや、俺だ」



「………あの時負けた3人は引っ込みなよ」



私を蚊帳の外に、5人で睨みあう。



ふーん。

そーですか。

弱い私は眼中にないってね。



頭の中で、プチっと切れる音がした。



「………イカネさん、力を貸してください」



「はい」



目の前に現れたイカネさんが差し出したお札を受け取り、霊力を込め、呼ぶ。



「オオクニヌシ! アメノウズメ! スクナヒコナ!」



3枚のお札は金色に輝き、姿を変える。


身の丈ほどもある大きなハンマーを担ぎ、反対の手には角材を抱える筋肉美を惜しげもなく晒す青年。


豊満な肉体の大事なところだけを隠すように絡みつき、なお長さのある比礼を腕や頭にゆるく巻きつけている美女。


ひょうたんに馬乗りする、妖精を思わせる羽を持つ小さな青年。



想像力がたりないから、ひとりで戦うことはできない。

でも、頼りになる私の軍師イカネさんの助けを受ければ戦える。



「ツクヨミさんと、スサノオさんも、手を貸してもらいますよ」



「はいはい」



「………ああ」



同盟者が私の召喚に気づいて、臨戦態勢をとる。

気づいてくれてよかった。

闇討ちなんて難癖つけられたら困るところだ。

私は声高に号令をあげた。



「さあ、我が家を壊す不届者たちを、制圧しておしまいなさい!」