そんな私に、スサノオノミコトが助言をくれる。
「おまえなら、オモイカネを喚び出す際。姿を見たい、会いたい、来てほしい、そういったことを強く思うと、その願いを聞き届けたオモイカネが現れる」
「スサノオ、その例えはやめよう。背筋がひゅっとなるから」
無機物人形ボディーにひゅっとなる背筋があるんですね。
「………主導権は力の強い方にある。いくら願っても、オモイカネが拒否すれば現れることはないだろう。言い換えるならば、呼び鈴を鳴らせば家の住人が出てくるが、出ずとも、力ある者は鍵をこじ開けて強引に連れ出すことができる」
「ひどい例えだわ」
なぜ私の周りはこうも物騒なのか。
スサノオノミコトは、もう少し平和的だと思っていたのだけど。
「………そこのが、タケミカヅチの雷、イワナガヒメの岩を召喚してみせたのは、扉を開き奴らの貸し出す力のみを呼び出したに過ぎない」
ご近所さんに庭で採れた野菜をお裾分けしてもらう感じかな。
「………本人を喚ぶより、力の一片や分身を喚ぶ方が、消耗は少なく済む」
「私はここに居る。月海は私に願いを届けなさい」
銀の髪が月光を淡く反射する。
ツクヨミノミコトは背を逸らして、拳を胸に叩きつけた。
神聖でありながら頼もしい。
俺に任せとけのポーズだ。
細められた金の瞳が、叶えてやるから、声を届けろと言っている。
ならば、私のすることはひとつだけ。
振り上げた両手を胸の前で組み直し、深く息を吸う。
オオクニヌシの技を思い出しながら、祈った。
「家を元通りに直してください」
瞬間、地面が揺れた。
先輩は刀を振るのをやめる。
「お? 崖が埋まったな」
天原家に大きく入った亀裂は、地下から迫り上がる大地によって元通り。
「あぁあ。俺の術が消されちゃったぁ」
「むっ! これから建築を始めるところだったのだが!」
大量の甲冑と、レンガサイズになった岩が砂に変わり風に攫われる。
「イヤーっ! ボクと響の傑作がー!」
「………毒の採取はしてある」
危険植物とその体液は枯れ、埋め立てられた。
更地となったそこに、木の柱が建ち、床、壁と、気付けば見慣れた家が出来上がった。
「…………で、出来た………」
「………月海、きみは…………」
ツクヨミノミコトは目を見開いてこちらを見る。
私には出来ないとでも思ってましたか?
家を元通りにしたい強い気持ちは強いわ。
よしっ、よしっ。
と、拳を胸の前で振り回して、大技の成功に喜びをかみしめる。
今ならなんでもできる気がするわ。
そんな私の感動に水を差す者たちがいる。
「ひどいっ! 観葉植物くらい、どこの家だって植えてるでしょっ!」
ぶりっこを捨て、悪鬼のような形相で柚珠にキッと睨まれるが、私も負けじと睨み返す。
「危険植物はどこの家にもないです!」
虫を一瞬で蒸発させる溶解液を出す植物なんて、民家にあってはなりません。
「甲冑は家にあっても不思議じゃないよぉ」
「うちは西洋のお屋敷じゃないです!」
「木の家より、石の家の方が頑丈だ!」
「うちは西洋のお屋敷じゃないです、木造で十分!」
木の家よりレンガの家の方が丈夫って?
三匹の子豚は、自分で家を壊さない。
もっと普通に暮らして。
「………塔や牢屋があった方が雰囲気が出る」
「うちは西洋の以下略!」
響君まで悪ノリしないで。
一般民家に何の雰囲気を求めているの。
「次はもっといい城を建てよう!」
「だめですってば!」
浄土寺筋肉達磨常磐は話を聞いて。
うちは西洋のお屋敷じゃないって、何度も言いましたよね。
「屋敷はダメだけど城ならオーケーってことはないですから! 直ったからって、壊していいわけじゃないですからね!」
「スクラップアンドビルド!」
「私の家!」
家を庇うように、私が両手を広げ割り込んだことで、常磐は振りかぶった拳を止めた。
風圧で、分厚い雲の一部が裂かれたように穴が空いて星が覗く。
抵抗しないと、彼らに任せると一晩でとんでもない要塞が出来上がってしまう。
「あれはダメこれもダメって、わがままはよくないぜ」
「先輩こそうるさいです。ここは私の家です!」
「私の家私の家って、今はここのみんなで住んでるんだからさぁ」
「先の戦いを見据えて、ちょっとくらい、ボクたちがリフォームしたっていいじゃんー?」
「………もっと、迎撃能力を上げる」
「俺たちに任せろ!」
うまい説得の言葉が出てこなくて、おまけに語彙も少なくて、頭も回っていないだけ。
なのに、私が聞き分けのない子みたいに言わないで。
私家主、あなた達居候。
1対5で四面楚歌だけども。
押され気味だけど、負けてなるものか。
「リーダーは私です!」
「お飾りのリーダーは引っ込んでてっ!」
「強い者が正義だよん、月海ちゃん」
「つまり、俺に任せろ!」
「いいや、俺だ」
「………あの時負けた3人は引っ込みなよ」
私を蚊帳の外に、5人で睨みあう。
ふーん。
そーですか。
弱い私は眼中にないってね。
頭の中で、プチっと切れる音がした。
「………イカネさん、力を貸してください」
「はい」
目の前に現れたイカネさんが差し出したお札を受け取り、霊力を込め、呼ぶ。
「オオクニヌシ! アメノウズメ! スクナヒコナ!」
3枚のお札は金色に輝き、姿を変える。
身の丈ほどもある大きなハンマーを担ぎ、反対の手には角材を抱える筋肉美を惜しげもなく晒す青年。
豊満な肉体の大事なところだけを隠すように絡みつき、なお長さのある比礼を腕や頭にゆるく巻きつけている美女。
ひょうたんに馬乗りする、妖精を思わせる羽を持つ小さな青年。
想像力がたりないから、ひとりで戦うことはできない。
でも、頼りになる私の軍師イカネさんの助けを受ければ戦える。
「ツクヨミさんと、スサノオさんも、手を貸してもらいますよ」
「はいはい」
「………ああ」
同盟者が私の召喚に気づいて、臨戦態勢をとる。
気づいてくれてよかった。
闇討ちなんて難癖つけられたら困るところだ。
私は声高に号令をあげた。
「さあ、我が家を壊す不届者たちを、制圧しておしまいなさい!」


