まじないの召喚師3




泣きそうになっていると、先輩が怒鳴ってきた。



「式神を喚べ!」



そんなに怒らなくたっていいじゃないか。

こちとら数ヶ月前までは先輩みたいな特別な家柄でもなんでもない一般人で。



「…………………はぁ?」



つらつらと言い訳を心の中で述べていたが、先輩の言葉を理解すると同時に、低い声が出た。



いま、先輩はイカネさんを喚べとおっしゃった?



「お前の式神なら、一瞬で制圧できるだろ」



銀の線が走ると、迫り来る矢が輪切りにされる。



「お断りします」



先輩の振り抜いた刀が鏃を捉え、返した矢は五月人形の一体を破壊した。



「テメェ! こんな時に何言ってやがる!」



先輩は一瞬、私を睨んでから、五月人形に視線を戻す。



「なぜ、イカネさんを喚べと、先輩に命令されなくちゃいけないのでしょうかっ………」



イカネさんと契約した時、彼女は、人に害なす妖魔を退治するのに力を貸してくれるという話だった。

友人でありたい以上、不文律というものがある。



「あいつ程度に私の天女を呼び出すなんて、私のプライドが許さない!」



人間同士の醜い争いに、お忙しいイカネさんの手を煩わせてなるものか。



「状況考えろよコラ!」



先輩の横をすり抜けた矢が、私の顔面に迫る。



「ひいっ!」



反射的に出した右掌に矢が刺さった。


血が溢れる。


痛い。



「ほう。ただの足手纏いかと思えば、貴様も式神使いか。呼び出せない言い訳だけは一人前だ」



おじさんの背後からは、おもちゃ屋のフィギュアやぬいぐるみが迫ってくる。



「まだ増えるのかよ!」



「残念だったな。この場には我以外の召喚を邪魔する結界が張ってある」



「どーりで、タケミカヅチから反応がないわけだ」



「お前のことは知っている。若くして高位の神を式神とした金光院雷地。己が戦いながら召喚をも可能とする。警戒しないわけがないだろう」



「褒めてくれてありがとー」



市松人形に苦戦する雷地の、いつもは軽薄な笑みの浮かぶ顔は余裕がない。

召喚する剣が片っ端から絡め取られて無力化され、自身が捕まらぬよう避けるので手一杯のようだ。



「そこの、浄土寺家の硬さは有名だ。ならば孤立させればいい盾が機能しないだけで、戦線は崩壊する」



常磐は、火炎放射器ビスクドールに火あぶりにされていた。


いくら丈夫とはいえ、時折炎の隙間から見える彼の顔は険しい。



「無能と有名な火宮の長子は意外とやるようだが、我には敵わん」



大技準備の為生まれた隙だったが、おじさんと先輩は牽制するように睨み合う。



「舐められたもんだな。月海、ここは俺に任せて、お前は逃げろ」



「先輩!? 何言って」



「ただ逃げろって言ってるわけじゃねぇ。結界の外に出て、式神召喚してから来い。いつまで庇い切れるかわからねぇ」



向こうから、大量の援軍人形の足音。

対するこちらは、先輩と、雷地と常磐と私。


術師としては、こちらの人数の方が上だが、舞台は大型ショッピングモール。

人形を操る彼にとって、兵隊はいくらでも補充が可能。

圧倒的物量で休みなく攻めてくる。


先輩達の強さは、一緒に稽古したから知っている。

が、連戦で疲弊し、押されている現状。


逃げ出したくても、逃げ道がない。

結局、質より量なのかと。


………でもちょっと待てよ。



「だから私は、イカネさんは召喚しませんって」