翌日、寝不足な頭を自席の机にくっつけていた。
ぬるくなったら位置を変え、ひんやりした部分を求めて額を擦り付ける様はまるきり関わりたくない変人である。
頭おかしくなったのかと疑われそうであるが、もとよりボッチ。
実害はほぼない。
補足しておくが、ゼロから引けるものなどなく、離れていく友人がいない、という意味で、害がないのだ。
未来にできたかもしれない友人を失ったかもしれないが、そのような皮算用は考えないものとする。
一縷の望みは捨てられないが、16年生きてきて友達の作り方も知らない奴が、ここにきていきなり友達などできるものか。
それは今日に至るまでに証明されている。
かといって、寂しさを紛らわせるために、皆には見えない友人、イカネさんを呼ぶほど、常識を失ってもいない。
さて。
なぜ、今、人間の友達がいないことを蒸し返すなどという自傷行為をせねばならないのか。
それもこれも全て、同盟者のせいである。
いや、同盟者などと呼んでなるものか。
同居人でも生ぬるい。
あんな人たち、居候で十分だわ。
しかも頭に『厄介な』をつけて。
1日目にして迷惑極まりないことをしでかしてくれたのだ。
身体が悲鳴を上げる中、登校したことを褒めてもらいたいくらいだ。
一晩中どっかんどっかん、爆発と、揺れと、諸々の騒音。
睡眠妨害甚だしい。
神水流式結界がなければ、近隣を巻き込む被害を生み出し、警察沙汰になっていた。
そんなことになればあそこに住めなくなるし、謝罪行脚の賠償金とかめんどくさいことになる。
事情聴取などされた日には、なんと答えたものか。
暴れ回る太い荊にどこからともなく溢れ出す水の柱。
超常の能力でやりましたってか。
寝言は寝て言えってね。
初めは対岸の火事と気にしないつもりだったが、雷地の乱入で先輩の部屋が剣山になったことにより、先輩と先輩愛なツクヨミノミコトが怒りの参戦。
家主たる私がどんなにやめてと言っても聞いてくれない。
名前だけのリーダーの命令を聞く義務もない。
……言葉で止めても聞かないならば、壊される前に強制的に寝かせてやればいい。
と、私を気遣ってくれたスサノオノミコトも加勢。
そしてより激しくなる戦闘。
私はオオクニヌシの家を信じることにして、心の中で手を合わせた。
結果、やたら殺傷力の高そうな凶暴な植物が家を覆い、水没して、刃物乱舞、骨格標本の大量発生からの、人間ピンボールなどなど。
常磐以外の全員で、夜明けまで破壊の限りを尽くすことになった。
その間、浄土寺常磐は何してたかって?
熟睡してたよ。
棘の鞭も、ギロチン並の大剣も、試験管爆発も、直撃してたはずなのに眉ひとつ動かさなかったのだ。
信じられないよね。
幸せそうに寝ていやがる姿に苛立ったので、時には盾として、時には鈍器として、両陣営に有効に活用されていた。
それでも、私たちの体力が尽きるまで目覚めることはなかったものだから実は石像なのではないかと疑ったり。
そんな鉄壁の浄土寺常磐は、朝、学校の支度をしなければならない時間になってもリビングでぶっ倒れている私達の前に、ギラギラの太陽の如く現れたのだ。
「おはよう! 皆集まってどうした! 俺は仲間はずれか? 次は誘えよ!」
やたらテンション高く、頭を無遠慮に殴りつけるような声。
「………うるせぇ」
「……安心しなよ、君も参加してたから」
先輩と雷地が声を絞り出して応えた。
他数名は呻き声を上げるだけ。
怪我は治癒術で治る。
皆、霊力の枯渇と肉体の過度な疲労と睡眠不足でだるだるなのだ。
かくいう私も、身体を丸めていた。
体を動かしているのはツクヨミノミコトとスサノオノミコトなので、何もできない私は寝ていてもよかった。
しかし、不快な虫を目で追うように、武器を持つひとを警戒するように、最後まで見届けたのだ。
家が破壊されて、直ったそばから破壊されて、直りかけを破壊されて、塞がらない傷を広げる。
意識が飛びそうだったけど、逆に怖くて最後まで見届けてしまった。
もちろん、共有されている肉体の疲労がないと言ったら嘘になるが、神様二人にいいように使われた身体より、留まることを選んだ心がすり減ったのだ。
胃が痛い………。
これは治癒術では治らない。
家は自動修復で今ではおおよそ直っていたから気づきにくいが、よく見れば、細かい傷跡が残っている。
直る前に破壊を繰り返せば、こうなる。
強化しても壊されるなら、強化を諦め修復にまわそうというエコ仕様。
最終的には、家を支えるのに重要な柱のみ耐久を増し、他は随分薄くなったものだ。
薄いと言ってもここにいる破壊者どもにとっては脆いってだけで、一般人から言わせてもらうとごく普通の壁である。
歩いただけで床が抜けるなんてことはない。
ちなみに、子ども達の落書きは、修復対象に含まれるらしい。
壁や床のクレヨン跡は消えろと念じて擦れば消える。
さすがはオオクニヌシの建てた家。
素敵機能を多数搭載。
寿命が長そうだ。