まず着手したのが、天原家の増改築だった。
「横は難しそうなので、3階建てにしましょうぞ」
庭から家を眺め、召喚に応じてくれたオオクニヌシが言う。
「1階を共用として、地下に稽古場、2階と3階に個人部屋を3つずつ……」
憧れの3階建て………いい。
…………いや。
私は振り切るように首を横に振った。
オオクニヌシの説明に一瞬喜んでしまったが、それはいけない。
「あの、お言葉ですが、工事もなしに2階から3階になってたら、ご近所さん、びっくりしますので……」
それに、無いとは思うけど、両親や妹が帰ってきた時とかさ。
説明できる自信はないかな。
「しかし、内装だけ変えるにしても、この人数では狭くなってしまうしのぅ……」
あごを撫でて考えるオオクニヌシ。
「合宿なのだから大部屋でよかろう」
「ボクはこのむさ苦しいのと一緒はイヤ」
「俺もちょっと、一人部屋がいいかなー」
「俺もお断りだ」
「私も、プライベート空間は欲しいです」
「………ねぇ」
響が注目を集めるよう挙手した。
「………神水流家のと同じ結界を張る。任せて」
神水流家の結界は、守護であり幻影。
いかなる攻撃も外へ漏らさず、中で何をしようと外からは見えないし聞こえない。
外から見る家も、改装前の姿を見せられるというわけだ。
それなら私も文句はない。
「ほっほっ、それはよい。頼んだぞ、少年」
そして、内装に関しては解決したかに思えたが。
「ボク思ったんだけどぉ、結界張るなら稽古場なくても良いんじゃない?」
柚珠がかわいらしい顔と声で、とんでもない事を言いやがった。
「………敷地内どこでも訓練か。いいね」
そして響は乗り気だった。
柚珠と響の間に、火花が散っているのが見える。
先程、不完全燃焼で終わったのを根に持っているんだろうか。
『あははっ、いいねぇ。闇討ちし放題だ』
よくない。
そうなれば、気が休まる暇がないし、なにより一番最初にやられる自信がある。
『私がついているのに?』
なぜ、自宅に居ながらにして、襲撃の恐怖に怯えねばならんのだ。
「却下だ」
先輩も同意見らしく、ぴしゃりと言った。
「なんで? 訓練にはちょうどいいじゃん」
「不可侵の同盟を結んだはずだが」
「内輪揉めしてる余裕は、正直ないよねぇ」
雷地も加勢してくれて、ありがたい。
とてもありがたいのだが、内輪揉めとは………。
どの口で言うんだろう。
「いつ襲われるかわからないんだよぉ? 慣れてた方がいいんじゃない?」
「それっぽく言ってるけど、見張りは交代でやるものだからねぇ」
「四六時中、気ぃ張ってられっかよ」
雷地と先輩の反論に、柚珠は舌打ちして引き下がった。
あ、そういえば、個室で思い出した。
私は先輩にこそっと耳打ちする。
「先輩、今度は壁、ぶち抜かないでくださいね」
「俺がそんな事すると思ってんのか?」
したじゃん。
火宮家で、私と先輩の部屋の間の壁壊して、自由に出入りしてきたじゃん。
私とイカネさんの邪魔しときながら、忘れたとは言わせないよ。
今度の家は、稽古場のような強化仕様でお願いしよう。
だが、さすがはオオクニヌシといったところか。
お願いするまでもなく、稽古場のような強化仕様の立派な家を建ててくれた。
曰く。
「きっと、禁止しても暴れるでしょうからなぁ」
ごもっとも。
出会った瞬間バトルは、どちらが格上かを分からせる名家の挨拶か疑うほどに。
「外部からの襲撃にも耐えうる作りとなっているはずじゃ」
敵は、大人しく試験の日を待つとは限らない。
いやな予言をしてくれる。
しかし、備えないよりはよっぽどいい。
………特撮のように、変形ロボにはならないよね……?
「また、何かあれば呼ぶがよいぞ」
ふぉっふぉっ、とオオクニヌシは機嫌よく笑い、お土産のマシュマロトーストを片手に神界へ帰った。


