夏川先輩は少しだけ納得できないという顔をしている。


 そのせいか、若干雰囲気が悪くなる。


「……わかった」


 ここで時間を使うことだって、望まれていないだろう。


 そう思って私は腹を括り、コートに入る。


「依澄、無理はしないでね」


 すぐに咲楽は駆け寄ってきて、優しく声をかけてくれる。


 私が頷くと、それぞれポジションに付く。


 そして私は目を閉じて、深呼吸をする。


 大丈夫。

 ここは、過去とは違う。


 そう言い聞かせて、目を開いた。


 相手ボールで試合は再開する。


 あのころ対峙していた選手たちよりも、当然スピードは遅く、私は相手がパスを出したタイミングで、ボールを奪う。


 ドリブルをし、ディフェンダーを避けながら進んでいく。


 久しぶりにボールを触ったけど、身体が覚えているみたいで、衰えていなかった。


 ゴール下に着き、あとはシュートするだけ。


 ボールを頭の上に持ってきて、膝を曲げる。


 そのとき、失敗する映像が頭の中に流れた。


『ずっと下手だよね。いつも大事なところで失敗する。アンタ、練習が足りないんじゃない?』


 余計なことまで思い出して、私の身体は完全に、動かなくなってしまった。