「だって、夏川先輩に撮られているみんな、楽しそうだった。生き生きしてた。先輩が本当に自分のために写真を撮っている人なら、誰もあんな自然な表情は見せないと思います」


 もう一度その大きな黒い瞳に僕を写すと、僕が惹かれた笑顔を見せる。


 なんて眩しいんだ。


「私は、先輩の写真は、先輩が素敵な人だから撮ることができた写真だと思います。先輩自身が否定したら、ダメですよ」


 僕は泣きたくなった。


 眩しくて仕方ない景色が、滲んでいく。


 そんな中で、古賀の表情がまた不満そうになるのが見える。


「それに、私が好きになった写真を、本人にそう言われると悲しいです」


 真っ直ぐに伝えられた“好き”という単語は、しっかりと僕の涙腺を刺激してきた。


 我慢しようとしていたのに、頬に一筋の涙が流れる。


 久々の肯定の言葉が、酷く心に染みた。


 僕の涙に気付き、古賀は慌てている。


「ご、ごめんなさい、私、なにか嫌な思いにさせるようなこと……」
「違うよ。逆だ」


 僕は食い気味に否定し、右手の親指で左頬に流れた涙を拭う。


 そして、古賀を安心させるために、笑顔を作る。


「ありがとう、凄く……嬉しい。ありがとう」


 長いこと笑っていなかったから、ぎこちなかっただろうに、古賀は最高の笑顔になった。


 僕はやっぱり、この表情を撮りたい。


 正直、写真を撮るのはまだ少し怖いし、わだかまりが残ったまま写真を撮るのは抵抗がある。