僕はカメラを下ろす。


 手持ち無沙汰なのか、氷野はまたボールを投げ始める。


「……最近、古賀に会ってないから」
「ああ、依澄、バスケ部に仮入部して忙しいんだよ」


 耳を疑った。


「本当に?」


 バスケ部にはいい思い出がないはずなのに、どうして。


 そう思わずにはいられなかった。


「この前のクラスマッチで、またバスケがやりたくなったんだって」


 辞めていたことが、やっぱり楽しいと知って再開する気持ちはわかる。


 だけど、不安に思う気持ちは、消えなかった。


「あと、夏川栄治が過去と向き合ったんだから、自分も向き合いたいってさ。依澄にとって、夏川栄治は憧れの存在なんだろうね」


 最後の一言のときだけ、声のトーンが変わった。


 その表情からも、氷野がからかう気持ちで言ったのがわかる。


 喜びと心配とちょっとした不満が混ざりあって、複雑な気持ちだ。


 これ以上考えても、頭が混乱するだけだろうから、僕は考えるのをやめた。


「氷野は、ここでなにをしてたの?」
「依澄を待ってる。もう、依澄の小さな変化も見逃したくないから」


 そこで一緒に入部するという選択をしないあたりが、氷野らしい。


「夏川栄治は体育館に行ってみたら? クラスマッチのときとは違う、真剣な依澄が見れるよ」