高瀬は持参していた予備の足ふきタオルの上にベチャベチャの本を置いた。そして急に、着ていた黒いパーカーを脱ぎだして黒くて薄いTシャツの姿になった。

「赤井の制服濡れてるじゃん。これに着替えてこい?」
「ありがとう。でも高瀬、その薄い長袖姿、寒くない?」
「いや、ヒートテックだから大丈夫」

 そう言いながら強制的に渡してきた。
 高瀬の存在しか見えてなかったけれど、改めて周りを見渡すと、まばらだけどお客はいる。ここで着替えるのは微妙かな。

「……じゃあ、トイレで着替えてこようかな? ありがとう、お借りします」

 トイレの個室に入った。

 高瀬の本、多分シワシワになるし、紙がくっついたりして、もう読めなくなっちゃうかなぁ。高瀬にとってはきっと大切な本……弁償しなくちゃ。

 でも、ハプニングが起きたお陰で気まずい雰囲気は回避出来て、起こってよかったなとも思ってしまう。

 着替えて、鏡を見た。
 高瀬から借りたパーカーは大きくてぶかぶかだった。

 さっきの、高瀬と密着した瞬間を思い出した。これは高瀬が着ていたパーカー。服なのに今、高瀬に包まれている気がした。

 鏡を見ながら長い袖をぎゅっと掴み、自分の頬に当てた。高瀬の匂いもする気がする。ドキドキしてきて顔が赤くなってきた。