「高瀬、おまえ……今、聞いてただろ?」
「うん、赤井が女装してたって……」
「俺は赤井が好きで……赤井の女装のこととかも、そういうことだから」

 そういうことだからって。そんな短い言葉だけで「はい、そうだったんですね」なんて納得できるわけがない。

「待てよ、どういうことだよ」

 俺の言葉を無視して黄金寺も教室から出ていった。ひとり教室に残されて、ぽつんと立ちすくんだ。

 すれ違った時に泣いていた、赤井の表情がはっきりと頭の中に残っていて消えない。

 教室の中では、カーテンだけが揺れている。

 赤井は優香ちゃん。
 優香ちゃんは赤井。

 優香ちゃんが赤井だって最初から知っていたら、優香ちゃんと仲良くなりたいとか思わなかったし。思わなかった? いや、今は……赤井が優香ちゃんだって知っていたら、赤井に冷たくなんてしなかった。

 赤井のこと何も知らないのに雰囲気だけで嫌だって決めつけて……でも赤井は優香ちゃんで。優香ちゃんは誰に対しても思いやりがあって優しくて、だから赤井も優香ちゃんだから実は優しくて……。

 なんだよこれ――。
 しかも、黄金寺は赤井のことが好き?

 混乱しながら自分の机に行き、机の中から教科書を出す。次の授業は化学だったのに、音楽の教科書を持って化学室に向かっていった。