咲良ちゃんは入口に置いてある小さなカゴを持って店のグミコーナーまで歩いていった。それを入れたあとは他の小さなお菓子をカゴにどんどん追加している。

 ちらりと咲良ちゃんの横にいる高瀬をみた。学校で僕と高瀬は本当に全く話さない。というか、学校では話しかけるなオーラを出されている気がしていた。

 多分、どっちかと言えば嫌われている。
 
 この状況は気まずいなぁ。

――こっちから自分が女装をしている話をしようか。でも今言うと、咲良ちゃんにもバレちゃう?

 なんて考えていたら、咲良ちゃんに突然名前を聞かれた。女の子バージョンの名前とか何も考えていなくて焦った。咲良ちゃんから〝ゆっちゃん〟ってたまに呼ばれているのも、ばあちゃんが僕のことを〝ゆう〟って呼んでいて、それに〝ちゃん〟をつけた感じだった。

 とりあえず思いついた名前、『優香』と名乗った。

「優香ちゃんは、普段何してるの? 何が好きなの?」
「ふ、普段? えっと……」

 会計後、自分にとってパーソナルスペースに不法侵入されたような質問を高瀬にされた。僕は自分の話を人にするのが得意ではなくて。でも僕と高瀬が仲良かったら答えをすぐに見つけられたかもしれない。

 今答えを探してみたけど見つからなくて、気がつけば「そちらは?」と、こっちから質問していた。

「俺? 俺は足湯で本を読むのが好きだな」
「足湯って『ひょう花』?」

 行ったことはない場所だけど、名前は知っている。

「そう」
「そうなんだ……」

 話が詰まったからとりあえずお客にするように営業スマイルをした。

――というか、僕の正体が赤井優斗だと気がついていない?