さらりとした黒の長髪、人形のような潤いのある目、二重の瞼、そして少し高めの鼻。
先ほどまで友達と一緒に話していたことも忘れてしまうほどだった。
「……た、おい、彷徨!!」
「あっ、ごめん。」
俺は電郎の声に気が付き、謝ると再び少女の方へ向くと少女は他の女の子といっしょに話していた。
「あ~、あいつ3組の中本じゃん。」
俺が見とれていると背後にいた電郎がぼそっと呟いた。
「中本…?」
「ああ、俺が中学生の時からの友達だよ。確か……中本沙織さんだったっけ。」
電郎はそう言うと、再び彼女の方を向いた。
(中本…沙織さん……)俺は心に深く刻み込むと、再び彼女の方を見た。彼女は友達に手を振って別れようとしていた。
(なんだろう……この気持ち……)
彼女が去って行くのを見届けると、俺は胸がとくとくとなっているのを感じた。
愛……?いや、違う……これはもっと別の何かだ……
(これが……恋……?)
そう思いながら電郎と別れると一心に足を動かすように隣りの物理学習室へ駆け込んだ。俺はドアのそばで、すがるように座ると、心臓の鼓動が落ち着くまで待った。
(中本……沙織さん……)
俺は彼女との出会いが運命的なものだと感じ、中本さんのことを考えるだけで心臓が高鳴るのだった。