「本当に、ここに書かれていること以外はしなくてもいいんですか……?」
「うん。あとできちんと製本して渡すから」
「たとえば、違反したらどうなるんですか……?」
「違反したら? 提供したものを返してもらうしかないね」

つまり違約金を払う、と……。

高校卒業は来年の3月。
たったの1年。
きっとすぐに終わる。
きっとすぐに他人になる。

この人はスターで。
私は教室すみっこ族の女。
終われば、別々の道を歩いていくのだろう。

事故みたいに交わってしまった1年のことなんて、まるでなかったかのように。

「少なくとも、今までみたいな惨めな思いや苦労はさせない。穏やかな空間を作って、俺が君を守るから。この1年は」

『穏やかな空間に私を連れてって!それが無理ならお母さんとお父さんのところに連れてってよ……!』

私がさっきそう叫んでいたから、こんなことを言ってくれるのかな。
そんな言葉、真面目な顔で言わないでほしいよ。
1年間のビジネスだと分かっていても心の奥がざわざわする……。

「分かりました。私……北条さんと、契約します」

もうどうにでもなれ!
今より悪くなることなんかない!

私はもう、半ば投げやりな気持ちで返事した。