エイティーンの契約婚

婚姻する代わりに、戸籍を汚す代わりに……経済力で生活が守られる。
社会人として働いて成功している北条君なら、その一点が保証されている。

そしてあの家で味わったような、1円を切り詰めるような暮らし、いつどうなるか分からずに怯える暮らしをしなくてもいい……。

私は安堵の息を吐いた。
他の条件を見直す。

一千万という途方もない数字は、本当なのだろうか……。
非現実的すぎてイメージが湧かないし、大きな疑問が出てきた。

「あの……北条さんは、どうして契約結婚をしたいのですか？」

大金を払って、面倒を抱えてまで。
契約書の中で私がtakeするものは『親、親族の前では妻として振る舞ってもらう』この一項目だけだ。

「現状、giveとtakeが全然見合っていないように思いますが……」
「俺が契約結婚をしたい理由ね」

黒板の前からこちらに戻って来た北条君は、ずいっと顔を近づけてくる。

「親の思惑を全部ぶち壊してやるためだ」

そう言う北条君の目は冷たくて、かなり怖かった。

「学校、友達、仕事、結婚相手……ウチは何もかも親に決められる。俺はベルトコンベアーに乗せられるだけの人生が嫌だった。だから反抗してここまで生きてきた」

親に結婚相手まで決められるとか……政略結婚？
そんなの絶対普通の家じゃないよね。
北条君の実家のことはなにも知らないが、良い所の生まれなのだろうか。