エイティーンの契約婚

お金もない、制服姿のままの私は、結局どこかに行く気にはならず定期を使って学校に来た。

校門によじ登り反対側に飛び降りる。
思いのほか高さがあり、うまく着地できず前のめりに転ぶ。

膝から出血している。
痛い……気がする。分からない。

不審者感知して警報とか鳴るんじゃないかとか思ったけど、案外普通に忍び込めるのだなと知る。
教室にも鍵がかかっておらずすんなりと中に入れた。

2年通った学校は私が心から落ち着ける場所。
目立たない存在だけど、舞香ちゃんにさえ会わなければ傷つけられることなんてないから。

真っ暗だけど全然いい。
向かう場所があるだけでいい。

今日から始まった、新しい自分の席に座る。教科書なんかはまだなにも入っていないが、日常に触れたら涙が出てきた。
悔しさと、怒りも。

「神様お願い! 穏やかな空間に私を連れてって! それが無理ならパパとママのところに連れてってよ……!」

誰もいないと分かっているから大声で叫ぶ。

「あの人たちは大嫌い! 二度と会いたくない!
伯父さまはいやらしい目で私を見て、関係を持とうとか、姪なのにどうしてそんなことが出来るの! 舞香ちゃんはいつもご飯食べずに捨てて、見下して! 伯母さまは家事全部丸投げで奴隷みたいに扱って……みんな最低で意地悪で大嫌い! 消えてなくなればいい! 私のお金返して! パパとママのお金なの! 返してッ……! 返してよぉ……」

今までのことをひとつずつ。
リアルに思い出してしまって。

「うっ……うぅっ……!」

泣きながら、机を拳で何度も叩きながら、暗闇の中で今まで言えなかった本音をぶちまける。

「……何叫んでんの?」

誰もいないと思っていたのに、声がしてぎくっと震える。