エイティーンの契約婚

『どこか』に向かっていた足がぴたっと止まる。

私にはどこにも行く場所がない。
頼れる人もいない。
お金もない。
家を出てたった数分で、伯父さまの言葉が正しいと思い知らされる。

じゃあ帰る？ 伯父さまに、謝る……？
一瞬よぎるが、さきほどの激しい嫌悪感を思い出し頭を振った。

できない……絶対無理。いやだ。

じゃあ、どこかでお金を借りる……？
それも、身分証明書とかがないと無理……？
借りたとして、どうやって返すの……？

水商売……？
日雇いの仕事……？
色々な大人の世界が、頭の中を駆け巡る。

どうしたら、私は生きていける……？

「美桜？」

俯いて歩いていた私は、声をかけられてはっと顔を上げた。車道に一時停止した車の、下げられたパワーウィンドウからこちらを見ている顔。

「舞香ちゃん……」

ここは家へと続く道なので彼女は家に送られている途中なのだろうが、最悪のタイミングで鉢合わせてうんざりする。

わざわざ降りてこないでいいのに……。

「見て見て、彼氏凄いでしょ？ 車持ってるの！ しかもBMだよ？ 分かる？ ドイツ車。凄い高いやつ！ お医者さまの親に買ってもらったんだって〜」

車種とか全然分からないけど、高級車のマークと塗装などから高いのが分かる。
お金持ちそうな彼氏を捕まえられる舞香ちゃんは、凄いと思う……。