エイティーンの契約婚

授業の終盤になると男子が入って来た。

「おお、北条か」
「すいません、寝坊しました」

遅刻しているというのに慌てる様子もなく、ゆったりした足取りで自分の席につくその男子生徒。

「なんだ、仕事の都合か?」
「そうなんです。新しいプロダクトの開発をしていまして」
「すごーい。次はどんなの作ってるの!?」

彼の登場で女の子は煌めき、ほどけたようにわいわいとする教室の空気。

「まだ内緒だよ」

『プロダクト』とか『開発』とか。
とても同じ高校生とは思えない大人びた発言に肩をすくめる。

同じように遅刻してきても。
私とは違う、先生の反応。
私とは違う、みんなの反応。

それはそう。
人気者の北条君と、教室すみっこ族の私では。
たまたま同じ日に生まれて、たまたま同じ学校に通って、たまたま同じ教室にいるだけで接点なんかなにもない。

……なにもなかった、昨日までは。

まだ、誰も知らない。
先生も、クラスメイトも、親友も。

私たちが、昨夜夫婦になったこと。