エイティーンの契約婚

怒鳴り声や悪口に、いつも傷付いて。
追い出されるかもと、いつも不安で怯えて。
仲良く出かけていく家族の背中を、ひとりで見送って。

はっきり言って辛いことばかりだった。
幸せな瞬間、楽しいと思う瞬間は一度もなかった。

「あいつら、いつも美桜を束縛して奴隷みたいにこき使って意地悪してるのに感謝もなかったし!」
「しっ。誰かにチクられて舞香ちゃんの耳に入るかもしれないから……!」
「ええ〜別にもう聞かれてもよくない? 最後はあの意地悪家族に言いたいこと言って出て来ちゃう!?」

イタズラっぽいほのぴに、私はゆっくり首を横に振った。

「家に置いてくれたこと、本当に感謝してるの。……それは本当に思ってるの」

ほのぴはヤレヤレとため息を吐く。

「美桜は本当に良い子だね。あんな扱いされたら普通は憎むし歪むよ?」

伯父さまの家で暮らすにあたってのルール。
部活、バイト、塾は一切禁止。
18時までに帰って来て、掃除や料理、家事をする。

あとはひたすら勉強する。
勉強をすることについて異論はなかった。
いい大学に入り、いい会社に入り、誰よりもお金を稼いで、ひとりで生きていけるようになりたかったから。

「だけど、ほのぴがずっとそばにいてくれたから、頑張れたんだよ!」
「……美桜〜!」

後見人は未成年者が成人すると共にその任務を終える。
未成年という縛りがなくなり、両親が遺してくれたお金を引き継いだら、私は伯父さまの家を出て行ける。

小3から『生かされていた』私の新しい人生は、ようやくその時から始まる。