「っ……、さっき誰か入ってこなかった?」

「気のせいだろ。……集中して」



ん?なんか声も聞こえない?



「やだ、なぎ……」



え、なに!?

やっぱ声、聞こえるよね!?



私は隣の個室の音を拾おうと、壁にそっと耳を付ける。

しかし溢れ出た手汗が、壁に貼り付けている手をずるりと滑らせた。

案の定、私は肘を勢いよくペーパーホルダーにぶつけて。



───ガタン!



トイレ中に、大きな音が響く。



や、やばい……盗み聞き、バレたかも!



だけど焦ったのは、当然私よりも隣の個室の男と女で。

少しだけ沈黙が流れると、男の声がそれを破った。