…なぁ。もしかしてなんだけどさ。

もしかして、なんだけど…。

「ずびびっ。ゆ、悠理君、無理しないでね。やみ、けほっ。病み上がりだから。おとなし、ずびっ。大人しくしてないと、駄目だよ」

「…そうだな」

「いつもげん、こほっ、けほっ…。いつも元気でいて欲しいんだ、悠理君は。いつも元気な大好きな悠理君でいて、ずびっ」

アウトだろ、これもう。絶対アウトだろ。

どう見ても、完全にアウト。

「…なぁ、寿々花さん」

「ずびっ。なーに?」

「…あんた、風邪感染ってるだろ」

「…ほぇ?」

そんな、可愛らしい仕草で首を傾げても駄目。

鼻水垂れてるから。

「…ほら、鼻をかめ」

「ありがとー」

ティッシュを箱を差し出すと、寿々花さんは、ちーん、と鼻をかんでいた。

絶対感染ってるって。どう見ても。俺の風邪が。

鼻垂れてるわ、咳もしてるわ、鼻声になってるわ。

なんか顔も赤い気がするし。

金曜日の朝、俺もこんな感じだったのだろうか。

「絶対感染ってるだろ。風邪」

「感染ってないよ。元気だよ」

嘘つけ。白々しい。

って、俺も金曜日の朝、似たようなやり取りをした身だから。

あんまり人のこと、責められないんだけど。

「熱あるんじゃないか?ちょっと測ってみろよ」

「大丈夫だよ。熱なんてないもん」

本当かよ。

「…」

「…」

ずびっ、と鼻を啜る寿々花さんとしばし無言で見つめ合う。

「…ねぇ、悠理君」

おもむろに、寿々花さんが口を開いた。

やっぱり鼻声。

「…何だよ?」

「…この部屋、エアコン壊れてないかな」

「…何で?」

「何だか今日、いつもより暑くない…?砂漠にいるみたいだよ」

「…それは熱のせいだ」

どう見ても、どう考えても風邪です。本当にありがとうございました。