アンハッピー・ウエディング〜後編〜

翌日。

昨晩一睡も出来なかった俺は、魂が抜けたように一日中ボーっとしていた。

「おい、おいこら悠理兄さん!しっかりしろって。昨日どうなったんだ?」

雛堂に肩を掴まれて揺さぶられたが、何処か他人事のようだった。

「あぁ…うん…。大丈夫…」

「大丈夫なように見えないんだけど?」

そうか。

実は、俺もそう思う。

「当たって砕けるとか言ってましたけど、仲直りしたんですか?」

乙無がそう尋ねた。

そうだな…今の俺の状態を簡潔に説明するなら…。

確かに…当たって、砕けた。粉々にな。

そしてもう、二度と戻らないのかもしれない。

「仲直りも何も…。別に喧嘩してた訳じゃなかったから…」

「結局、避けられていた原因は何だったんですか?」

「…それは…」

雛堂達に事情を説明するか、俺は迷った。

…彼らに相談したって、何にもならない。

雛堂も乙無も、俺と同じく…留学などとは全く無縁なのだから。

…だが。

これまでずっと俺の相談に乗って、ずっと励ましてくれてたこの二人に。

今更、「あんたらには関係ないから」と突き放すようなことを言うのは、道理に反すると思った。

「…実は…」

俺は昨日聞いた、寿々花さんの留学の話を二人に話して聞かせた。

これには、さすがの雛堂もびっくり。

乙無だけは相変わらず、何を聞かされても動じなかった。

タフなメンタルだよ、乙無は。

俺も見習いたいものだ。

「ふへぇー!留学!留学だってよ。聞いたか?真珠兄さん」

「聞いてますよ。ヨーロッパに語学留学ですか…。いかにも金持ちの嗜み、って感じですね」

全くだよ。

生まれながらの貧乏人である俺には、夢のまた夢。

「自分、生まれてこの方、留学なんて一回も考えたことねーや。留年なら考えたことあるけど」

「大丈夫だ、雛堂…。俺も同じだから」

留学と留年。字面は似てるが、その意味は全く別物である。

留学は「おぉー」ってなるけど、留年はマジで洒落にならんからな。

「…長期留学…ってことは、一年くらい?」

「大体半年以上が長期ですね。とはいえ、寿々花さんの場合年単位だと言ってるので、もっと長いでしょうが」

少なくとも椿姫お嬢さんは、もう何年もずっとヨーロッパに滞在している。

椿姫お嬢さんと同じ道を辿るなら、寿々花さんもきっと、同じように何年もそのまま海外生活を続けるのだろう。

帰ってくるのは…果たしていつになることやら。

「やっべ、一年も二年も外国で生活…?自分だったら、3日で野垂れ死にしそうだわ。あっ、でも自分パスポート持ってないから、行こうと思っても行けねーわ」

「大丈夫だ、雛堂…。俺も持ってないから。乙無は?」

「地球の大地は神のものであって人のものではないのに、パスポートなんて紙切れがないと好きなように移動も出来ないなんて。人間も勝手なルールを定めたもんですね」

つまり乙無もパスポートは持ってないと。

海外留学どころか、これじゃあ海外旅行にも行けねぇよ。

行く予定もないけど。

飛行機だってろくに乗ったことないのに。

それどころか、学校の英語の授業でさえあっぷあっぷしてるくらいなのに。

海外留学なんて、以ての外である。