「喋ってくれるまで居座るからな」

俺はその場に、寿々花さんの部屋の床に、どっかと胡座をかいて座った。

動かざること山の如し。

「そ、そ、そんなことしても、む…」

「無駄だって言いたいのか?残念だったな。無駄かどうかは俺が決める」

良いか、今日の俺は引かないぞ。

一歩も引いてなるものか。押して押して押しまくってやる。

「それどころか、寿々花さんが行く先々についていってやる」

「えっ」

「学校に行けば離れられると思うなよ。こうなったら、そう…女子部の新校舎にだって一緒に行ってやるからな」

「えぇっ…」

…マジで何言ってんだろう。俺。

でも、言ってしまったことは撤回出来ない。

一心不乱、無我夢中で前に進むしかない。

「さぁ、白状してもらおうか。何を隠したんだ?何を隠してるんだ?俺に」

「…ゆ、悠理君が…意地悪になっちゃった…」

「知らなかったのか?俺は元々意地悪だよ」

誤解していたようだが、俺はもとからこんなだぞ。

…まぁ、冗談はさておき。

真面目な話だ。

「…嫌われんのは別に良いんだよ。元々好き好んで一緒に暮らしてる訳じゃない。自分が寿々花さんに釣り合うなんて、一回も思ったことはない」

「…!」

「寿々花さんに釣り合うような男に…なれたら良かったけど、どうやったって生まれは変えられない訳で…。だから、そのせいで嫌われるのはしょうがない。それは納得する」

どんなに頑張っても、変えようとして変えられることと変えられないことがある。

身分違いなのは、百も承知。

…だけどさ。

「去年の…春から一緒にいて、ほぼ一年。まがりなりにも寿々花さんと一緒に暮らして…。自分でも意外だったけど…俺は楽しかったよ。こんな風に暮らすのも悪くないと思った」

まさか、そんな風に思えるとは夢にも思わなかった。

これから先、ずっと牢獄に囚われたように暮らすんだと思っていたから。

思いの外寿々花さんが親しみやすい人で、一緒に暮らしてみて、悪くないと思えた。

出来ればこれからもずっと、そんな風に暮らしていきたい。

大人達が決めた関係とか、そういうのを抜きにして。ただ俺は、純粋に、単純に…。

「俺は…これからも寿々花さんと一緒に居たい。つまらないことで笑い合って、下らないことを楽しんで…。そうやって暮らしていきたい。その為に出来ることなら何でもやるよ」

「…悠理、君…」

「生まれは変えられないけど…。性格とか態度や、言動なら変えられるから。変える努力をする。だから、俺に不満があるなら、遠慮なくそう言ってくれ」

すぐには…無理かもしれないけど。

でも、頑張って変わってみせるよ。

努力でどうにかなることなら、どうにかする。

理由も分からないのに避けられてる、っていうこの状況が、一番耐え難い。

だから、せめてその理由を教えてくれないだろうか。

これが、俺の精一杯の…素直な気持ちだ。