アンハッピー・ウエディング〜後編〜

気が遠くなるような作業を、無事に乗り越え。

ようやく、可食部のカカオニブを取り出した。

もうこれで完成で良いんじゃないかと思う。

しかし、そうは行かない。まだまだ地獄はこれからである。

「はぁ、はぁ…。次の作業は…?」

そろそろ…そろそろ楽をさせてくれないか?あとは鍋で煮るだけ、とか。

「次はねー…。これだって」

と言って、寿々花さんがさっと手に取ったのは。

すりこぎと、すり鉢だった。

あー、はいはい。うん。成程ね。

絶対楽をさせてくれないという、強い意志を感じる。

「これで、細かくすり潰すんだってー」

「…そうか…」

楽…させてもらえないよな。やっぱり。

ようやく、ペンチとピンセットから解放されたと思ったら。

今度は、より分けたカカオニブを、すり鉢に入れ。

ゴリゴリゴリ、とひたすらすりこぎですり潰す作業が始まった。

こちらもまた、殻剥きと同じくらい地味で根気の要る作業。

おまけに根気だけじゃなくて、今度は力も結構要る。

かったいの何のって。

マッシュポテトとは訳が違う。

すりこぎで潰すようなもんじゃねーよ。

ほんの30分足らずで、腕がパンパン。

真冬だっていうのに、あまりに暑くて暖房を切るくらい。

上着を一枚脱ぎ捨てて、それでも汗かいてる。

「これ…本当にこの作業、合ってるのか…?」

これだけ根気よくすり潰しても、依然としてチョコレートに近づいているようには見えない。

「合ってるって?」

「すり潰す方法が原始的過ぎないか…?なんか、こう…ミキサーとか…フードプロセッサーとかさ…」

そういう機械に頼るべきなんじゃねぇの?

すり鉢とすりこぎって。あまりにも方法が原始的。

「ふーど…ぷろれす?」

プロレスじゃないって。

「フードプロセッサーだよ…。俺は持ってないけど…」

ああいうので粉砕したら早いんじゃねぇの?

だが、『猿でも分かる!チョコレートの作り方』を読んでみたところ。

「フードプロセッサーを使わず、手作業で根気よくすり潰すのが美味しさの秘訣!」とのこと。

何?その精神論。

米を炊くのに炊飯器を使うな。薪とかまどで炊け!って言ってるのと同じ。

畜生…。楽はさせてくれないんだな。やっぱり。

猿でも分かるとは書いてあるけど、猿でも出来るとは言ってない。

一時間経っても、ぜーんぜん粉にならない。

これ、今日中に終わる?

絶望感漂ってきたんだけど。

腕が…腕が痛い。一応、右手と左手を交互に持ち替えて、疲労感を誤魔化しているものの。

両腕共に深刻なダメージが蓄積してきた。

料理でこんなに疲れたことって、人生で一度でもあっただろうか。

俺がやっていることは、果たして本当に料理なのだろうか。

「俺…何の修行してんの…?」

「?修行?」

やべぇ。心折れそうになってきた。

チョコレートに敗北するなんて。屈辱的。

その時。

「悠理君、疲れたなら代わるよー」

と言ってくれた寿々花さんが、さながら救いの女神に見えた。

…え?男の癖に力仕事を女性に任せるのか、って?

任せるわ。さすがに今だけは男女平等だろ。