アンハッピー・ウエディング〜後編〜

成程、バレンタインね…。

昨日スーパーに行ったら、やたらと板チョコが安売りされてて。

何でだろうと思ってたけど、あれはそういうことだったのか。

ふーん。バレンタイン…。そういや、そろそろそんな時期だな。

2月14日だよな?もう来週じゃん。

「はぁぁぁ…。辛い時期がやって来たよ。全国の頭お花畑な恋人達がキャッキャウフフする、地獄みたいなシーズンが」

落ち込みまくる雛堂である。

ふーん。それが雛堂の深刻な悩み…ねぇ。

「…案の定、めちゃくちゃ下らない悩みだったな」

「全くですね」

奇遇だな、乙無。あんたも俺と同意見か。

「おい、こら!何だその言い種は。親友がこんなに悩んで落ち込んでるというのに。他に言うことはないのか!」

そんな逆ギレされても、俺、今あんたに敵だって言われたからな。

…で、何で俺が敵なんだ?

「自分も一回で良いから、チョコレートもらってみたいぜ…」

だ、そうだ。

「心配しなくても、俺ももらったことないぞ」

雛堂は何か勘違いをしているようだが、俺だって今日に至るまで、彼女いない歴=年齢なんだからな。

恋人からチョコレートなんて、もらったことがない。

こんなことを言うのは癪だが、雛堂と同類なのだ。

だから、女の子からのチョコレートに憧れる気持ちは…まぁ、分かるっちゃ分かる。

しかし、雛堂が言いたいのはそういうことではないらしく。

「嘘つけ。お母さんからもらったことくらいはあるだろ」

「え?いや…それは…あるけど」

恋人からチョコレートをもらったことはないが、母親からは毎年もらっている。

え?でもそれってノーカンじゃねぇの?

そりゃ、母親だって女だけども。

母親からもらったチョコレートをカウントするのは、卑怯なのでは?

「考え方を変えてみろ。人妻からチョコレートをもらえるんだぞ?ある意味でそっちの方が性癖に突き刺さる人もいるんじゃね…!?」

「…」

…雛堂は何を言ってんの?マジで。

「乙無…。雛堂は頭がおかしくなってるのかもしれない」

「かもしれないじゃなくて、おかしいんですよ」

そうか。やっぱりあんたもそう思うか。

疑って悪かったな。

雛堂、あんたは頭がおかしくなってるのかもしれないんじゃなくて。

普通に頭おかしい。

これがもっと進行したら、病院行きだな。

「自分は母親もいねぇから、母親からチョコもらったこともないんだぞ。ママチョコでも充分羨ましいわ」

あー、うん…成程。

確かに…雛堂にはそういう事情があるから。

おまけに雛堂の家は、男兄弟しかいないんだよな。

余計に、バレンタインなどというイベントとは縁遠いだろう。

そう思うと、ちょっと気の毒…な気がしなくもないが。

「そんな…。でも、俺だって今年は…母親とは離れて暮らしてるから、今年はないと思うよ」

つまり、雛堂と同じで今年は誰からもバレンタインチョコなんて…。

しかし、雛堂は俺の励ましで元気を取り戻す…どころか。

親の仇でも見るかのように、じろりとこちらを睨んだ。

「うるせー、このリア充め。確かにママチョコはもらわないかもしれないけど、でも本命チョコをもらえるだろ!」

…本命チョコ?

って、女性から送られるチョコのこと?

とんでもない。俺は生まれてこの方、本命チョコどころか、義理チョコももらったことないのに。