アンハッピー・ウエディング〜後編〜

翌日。

俺は、うんざりとした気分で目を覚ました。

「はーっ…」

寝起き一発目に、巨大な溜め息。

だって、そりゃ溜め息つきたくもなるだろ。

悪夢だったんだぞ。

壁に耳あり障子に目あり、どころじゃなかった。

壁に目あり天井に目あり床に目あり、全てに目あり状態だったぞ。

全く、ろくな夢じゃない。

お陰で、寝ている間もずっと、誰から…何処かから視線を感じていた気分だよ。

しかし、夢見が悪かったからと言って、学校をサボる訳にもいかず。

早く起きて、またお弁当作らないとな。

パジャマから制服に着替えて、自分の部屋を出ようと思ってドアノブを掴んだ。

その時に、俺はふと思い出した。

…あれ?俺、昨日鍵、閉めて寝たはずだよな?

…開いてるんだけど?

俺は突然、いきなり、サーっと背中が冷たくなった。

…何?このホラー現象。

閉めていたはずの部屋の鍵が、寝ている間にいつの間にか…。

いや、まさか。そんなはず…。

「…」

いや、気の所為。気の所為だ。

きっと寝ている間に、寝惚けて開けてしまったか。

あるいは昨日、鍵を閉めたつもりで、実は閉まってなかったんだよ。そうに違いない。

まさか寝ている間に、鍵を開けて誰かが侵入してきたなんて、そんなこと。

気の所為、気の所為と自分に言い聞かせながら、鍵のかかっていない扉を開けると。

「…うわっ…」

「…zzz…」

扉を開けたその先に、クリップボードを抱いた寿々花さんがいた。

また出待ちかよ。

しかし、寿々花さんはそこにいたけれど。

昨日みたいに待ち構えているのではなく、壁にもたれて、座って眠りこけていた。

こっくりこっくり、と船を漕いでいらっしゃる。

「あ、あんた一体、いつからそこに…」

「…zzz…」

…全く、本当に何がやりたいんだ。

「…おい、おい寿々花さん」

俺はしゃがみ込んで、眠っている寿々花さんの身体を揺すった。

寝てるところ悪いけど、こんなところで寝るなよ。

風邪を引くぞ。

「うーん…。むにゃむにゃ…」

「起きろって。何でこんなところで寝てるんだよ、あんたは」

「むにゃ…。…ふぇ?」

ぱち、と目を開ける寿々花さん。

おはよう。

「…あ、悠理君だ」

「何でこんなところにいるんだ?」

「しまった。寝ちゃってたー」

見れば分かるよ。

俺が聞きたいのは、何故こんなところで寝ているのかということだ。

「いつからいたんだ?ちゃんと自分の部屋で寝ろよ」

「ふわぁ…。そうするつもりだったんだけど、昨晩も色々忙しかったし…」

寿々花さんは、あくびを噛み殺しながらそう言った。

…色々?忙しかった?

…って、何に?

「部屋のマスターキーを探すのに手間取っちゃって。見つかって良かったー」

「…あ、そう…」

…え?マスターキー?

って、何の為に?

昨日の夜の悪夢…。起きたら開いていた、部屋の鍵。マスターキー…。

色々な事象と寿々花さんの言葉が繋がって、また背中が冷たくなったが。

「顔、洗ってくるー」

「あ、う、うん…」

寿々花さんはそんな俺の気も知らず、ふわぁ、とあくびをしながら顔を洗いに行ってしまった。

で、残された俺に出来ることと言ったら。

「…うん。気の所為だな」

全てを気の所為にして、なかったことにして、忘れることだけだった。