アンハッピー・ウエディング〜後編〜

ビュッフェ・レストランを出た後。

「はー。食べた食べた」

満足したか?

果たして、今晩の夕食食べられるだろうか。

クリスマスの夜なのに、お茶漬けと糠漬けで済ませそうな予感。

…さてと。

相変わらず空模様もご機嫌斜めで、生憎の曇り空でムードも何もないが。

「…寿々花さん。これからどうする?」

「ふぇ?」

「真っ直ぐ帰るか?それとも…この辺り、ちょっとぶらぶらしていくか?」

そう聞くと、寿々花さんの顔がぱっと明るくなった。

お?

「本当?良いの?一緒にお散歩して良い?」

「え?うん。良いけど…」

「やったー。じゃあ、お手々繋いでお散歩しよー」

「え?は?ちょ、」

「あっち、人がいっぱいいるね。行ってみよー」

ちょっと待て。散歩するとは言ったけど。

…手を繋ぐとは、一言も言ってないんだが?

しかし寿々花さんは、そんなことはお構いなし。

当たり前のように俺の手を取って、ぎゅっと握って歩き出した。

いや、良いけどさ。別に良いけど。

それは別に良いんだよ。手を繋ぐこと自体は。

でもこういうのって、もっとムードってものが大切なんじゃないの?

はぐれそうになったから、とか。人混みで転びかけたから、とか。

そういう口実…「言い訳」をして、そっと手を差し出して繋ぐ…っていうのは。

…童貞の妄想ですか。そうですか。

…分かったよ。良いよ。口実なんて別になくても。

ただ手を繋いで一緒に歩いている。その事実があればそれで良い。

「悠理君、あっち行ってみよー」

何より、寿々花さん本人は、そういうこと全く気にしていないようだから。

俺も気にしないことにする。

この人を前に、一般常識を持ち出しても通用しないよ。

この8ヶ月で、俺は嫌と言うほどそのことを学んでいる。

「…分かった。行ってみようか」

「わーい。悠理君とお散歩〜」

散歩で喜ぶとか、あんたは犬かよ。

…(色んな意味で)全く目が離せないという点では、確かに犬っぽいな。

「どっちかと言うと…俺は猫派なんだけどな…」

「ほぇ?悠理君、何か言った?」

「いや、何でもない…」

しまった。心の中の呟きが、つい口に出てしまっていた。

小っ恥ずかしい。と思ったら。

「私は悠理君派だなー」

と、寿々花さんが呟いた。

…何それ?

ペット?俺の扱いペットなんですか?

つーか、ばっちり聞こえてたんじゃないかよ。

…寿々花お嬢さん、意外と侮れん。