「ドレスコードっていうのは、ドレスを着ていれば良いってものじゃないんだよ。分かってる?」

「駄目なの?これ」

「もう少し、TPOというものを考えて欲しいね。椿姫様だったら、このくらい言わなくても分かるはずだよ」

やれやれ、とばかりに肩を竦める円城寺。

何だと?この野郎。クソ生意気に。

文句があるなら一人で行けっての。

「まぁ良いや。ほら、行くよ」

「うん…。…悠理君」

寿々花さんは、くるりと俺の方を振り向いた。

「行ってくるね」

「あぁ…うん。行ってらっしゃい…。…気をつけて行けよ」

色々な意味でな。

円城寺ごときに絆されるなよ、という意味合いが一番強いのは、言うまでもない。

…まぁ、寿々花さんに伝わっているかどうかは謎だが。

伝わって欲しいものだ。

寿々花さんは円城寺に伴われ、ひらひらと手を振って玄関から出ていき。

円城寺が路端に待たせていた、いかにも高級車って感じの車(車種が分からん)に乗っていった。

その車が去っていくのを、俺はリビングの窓からじっと眺めていた。

…行ってしまった。

…何だろう。心にポッカリと穴が空いたような気分。

変だよな。

寿々花さんがいない日曜日なんて、貴重な一日のはずなのに。

溜まっていた家事を片付けて、何ならちょっと早めの年末の大掃除をしても良い。

…それなのに、全然…他のことは、手に付きそうにないや。

「はー…」

…早く帰ってこないかなぁ、なんて。

たった今出ていったばかりなのに、俺は早くもそんなことを考えていた。