何にせよ、通じて良かった。

『良かったー。悠理君に着信拒否されたのかと思ったー』

「する訳ないだろ…」

ちょっと電話の調子が悪かっただけだよ。

『あのね、悠理君の声が聞きたいなーって思ったから、また電話したんだー』

「そうか…。そっちはまだ昼間なんだよな?」

『うん。この後ローマに観光に行くんだー』

ローマだってよ。いかにもイタリア旅行って感じだな。

『さっきお昼にね、ピザ食べたんだ。ローマピザ。チーズがいっぱい乗ってるの』

非常にタイムリーだな。

今日はどうにも、妙にピザに縁がある。

「奇遇だな…。実は俺も、今ピザ食べてる」

『え、本当?』

まぁ、寿々花さんが食べてるのは、本場の本物のピザであって。

俺が今食べてるのは、冷凍生地で作ったお手軽適当ピザだから、全然違うものだけどな。

それなのに。

『良いなー。悠理君のピザ、美味しいんだろうな』

「間違いなく、あんたがさっき食べたピザの方が美味しいよ…」

ましてや、昼間の調理実習で作った、なんちゃってイタリアンピザに比べたら。

そりゃもう、天と地の差だろうよ。

…それよりも。

「どうだ?そっちは。…旅行、楽しんでるか?」

『うん。面白いよー』

そっか。それは良かっ、

『悠理君はどう?元気?』

「…元気…だよ。うん。一応…」

実は、あんたらが修学旅行に行ってるせいで、新校舎から出張教師が来て。

毎日大変な目に遭ってるよ、とは言えなかった。

別に寿々花さんが悪い訳じゃないからな。

「元気だけどさ…。早く戻ってきて欲しいよ。切実にな…」

『悠理君も寂しん坊だねー』

「うん…寂しん坊だよ、俺も…」

マジでもう。早く修学旅行終わってくれ。

毎日毎日イレギュラーなことばっかりで、もう身が持たない。

寿々花さん達が旅行、楽しんでるのは分かった。それは良いことだ。

良いことだけど、そろそろ帰ってきてくれ。頼む。

「元気に帰ってきてくれよ。…待ってるから」

『うん。そうするー』

亭主元気で留守が良い、って言うけどさ。あれは嘘だな。

まぁ、うちの場合は亭主じゃなくて…嫁なんだが。

やっぱり何だかんだ、いつもの日常の方が落ち着くわ。…安定感があるよな。




…それからしばらく、他愛無い話をして。

『じゃあ、お土産楽しみに待っててね。ばいばーい』

「あ、うん。ばいばい…」

と言って、名残惜しく電話が切れた。

…やべぇ。カルチョーフィはやめてくれ、って言うの忘れてた…。

…まぁ良いか。些事なことだよ。電話でとはいえ、寿々花さんと喋ったんだから。

おまけに、テーブルの上に置きっぱなしにしていた、食べかけのピザ。

冷めきって、チーズが固まってカチカチになってしまっている。

…まぁ良いか。些事なことだよ。…以下略。

今なら、冷めたピザだけど、不思議と今日一番美味しい気がするよ。