アンハッピー・ウエディング〜後編〜

…とはいえ、牛肉って鶏肉や豚肉と違って、色が赤っぽくて鮮やかじゃん?

だから、区別ついて欲しかったんだけど…。

「うーん…。どれが美味しいかなー…」

やっぱり、寿々花さんには区別がついてないようだ。

一応、家で練習したんだけどな…。

まぁ、何でも良いよ、この際。

肉なら何でも良い。

カレーと言えば、牛肉が一番ポピュラーだけど。

牛肉って、他の豚肉や鶏肉に比べて、どうしてもちょっと割高じゃないか。

そこで貧乏性の俺は、牛肉の代わりに豚こま肉を使ってポークカレーに入れたり。

鶏肉を入れてチキンカレーにしたり。

何なら肉を入れずに、ウインナーや魚肉ソーセージを入れて作ることもある。

タンパク質なら何でも良いんだよ。

この際、どの肉でも許容範囲…。

…だったのだが。

「あ、これにしよう」

寿々花さんがかごに入れたのは、まさかの豚ひき肉。

どれでも良いとは言ったけど、何故よりによってひき肉なのか。

「細かく切ってあるから、悠理君が包丁で切る手間がなくなるよね」

成程、俺を気遣ってくれたらしい。

ありがとう。でも、細かく切り過ぎだろ、それ。

そういう気遣いは…不要だった。

「お肉を入れたらー…次はお魚も要るよね」

それどころか、とんでもないことを言い始めている。

今更シーフードカレーに転向するのか?

「どれが良いかな…。おっきいお魚が良いよねー…。あ、これなんかどうだろう」

寿々花さんが何を選んだのか、よくよく見てみると。

タイのアラをパック詰めしたものだった。

タイのアラカレー…。

…何だろう。凄い生臭そう。

「頭も入ってるし、きっと良い出汁が出るよね」

出汁は出ると思うよ。…それがカレーに合うとは限らないけどな。

「これだけじゃ足りないかな…?こっちの海藻と…あ、かつお節だー。これでお出汁を取ろう」

でっかい昆布と、お得用かつお節を購入。

出汁が増えていく。和風の美味しそうな出汁が。

どうしよう。さすがにもう修正出来ない。

いくらカレー味が万能でも、さすがにこれ以上は無理。

「よし、これでカレーの材料は皆揃ったね。お会計しよーっと」

…正気か?

寿々花さんはレジに向かって歩き出した。

そのままお会計を忘れて、店の外に出ようとしなかっただけマシだが。

「…あ、そうだ」

レジに並ぼうとして、寿々花さんはハッとして足を止めた。

お、どうした?

さすがにカレーにレモンは要らない、と気づいたのか?

…しかし、そうではなかった。

「私、カレーの素買ってない」

…カレーの素?

って、カレー粉のことか。

そういや、買ってなかったな。

「カレーの素がないと、カレー出来ないよね。思い出して良かったー」

…思い出してくれるのは嬉しいけど。

もう、カレー粉でどうにか出来る範囲を超えてると思うぞ。