早めに家を出たのは正解だった。

あまりにも歩く速度が遅いせいで、いつもより早く家を出たはずなのに。

学校に到着した時刻は、いつもよりちょっと遅いくらいだった。

よっぽど歩幅狭かったんだろうなぁ…。ひよこみたいにチョコチョコ歩いて。

それでも、何とか辿り着いたよ。

学校までの道のりが、富士山登山みたいに感じられた。

特に、昨日も散々苦しめられた、新校舎から旧校舎に登る坂道な。

あれがもう、地獄のように長くてキツい。

俺だけじゃなくて、その登り坂を登る他の男子生徒達も、死んだ魚の目になっていた。

ここだけ、さながら地獄の一丁目。

擦れ違った人は、何事かとぎょっとしただろうな…。

まさか、全員筋肉痛ですとも言えず。

教室に辿り着いた時は、そりゃもう砂漠でオアシスに辿り着いたかのようにホッとした。

無事に、遅刻せずに辿り着けたよ。

「はぁー…。登校するだけでキツ過ぎだろ…」

俺だけじゃなくて、既に登校していたクラスメイト達も、机に突っ伏してぐったりとしている。

昨日の疲労と筋肉痛が、まだまだ色濃く残っているようだな。

そりゃそうだ。

登校するだけで、今日一日分の体力を使い果たした気分。

果たして、放課後までに少しは回復しているだろうか。

…すると。

「やれやれ。皆さんだらしないですね。これだから軟弱な人間は…」

呆れたような口調で、乙無がかすかに首を振った。

…この野郎…。

クラスメイトが皆、揃って前日の疲労と筋肉痛に神経を参らせているというのに。

ぶっちぎり一番でゴールした乙無だけは、いつも通り余裕綽々のご様子。

こいつの体力は無尽蔵か?

それとも、本当は俺達と同じように、筋肉痛で全身悲鳴をあげているのに。

邪神の眷属(笑)設定を貫く為に、また痩せ我慢してんのか?

もしそうなら、見上げたもんだよ。

「この程度、罪の器を満たし、聖神ルデスの巫女を始末することに比べたら、どうということはありません」

ドヤァ、とムカつくドヤ顔。

あーはいはいそうですねー。凄いですねー。

あんたは邪神の眷属なんかやめて、今すぐ陸上部に入って長距離走やれば?

絶対その方が向いてるし、絶対その方が格好良いと思うぞ。

「何ですか、悠理さん。そのジト目は…」

「…べっつにー…。…それより、雛堂来ないな」

「来てませんね」

ちらりと時計を見る。

登校時間まで、あと5分程度。

この時間を過ぎて校門を潜ったら、それはもう遅刻扱いである。

のんびり屋の雛堂でも、さすがにいつもこの時間には登校しているのだが…。

…今日は、まだ来てないな。

「雛堂だけじゃなくて…今日、なんか人数少なくね…?」

「半分くらいしか居ませんね」

クラスメイトの数が半減して、一桁の人数しかいないんだけど。

登校時間5分前で、この人数はヤバい。

全員遅刻か。無理もない。

彼らの遅刻の原因は、間違いなく筋肉痛だと思われる。