この人は、かの名だたる名家、無月院(むげついん)家のお嬢様だ。

生まれたときから、それはもう蝶よ花よと育てられ…てはないみたいだけど。

立派な門構えの大邸宅に住み、服を着替えるにも侍女の手を借り、食事は全て一流の料理人が作り。

通っている学校は、国内有数の超お嬢様学校、聖青薔薇学園女子部。

優雅にフランス留学する姉と、イギリス帰りの元婚約者を持つ、そんなお嬢様。

そのお嬢様が、「我儘」を強請ってくるんだぞ?

どんな無理難題を押し付けられるのかと、誰もが身構えることだろう。

しかし、強請ってきたのはたこ焼きパーティー。

海外旅行に行こうよとか、ダイヤモンドの指輪が欲しいとかじゃなくて。

たこ焼きパーティーだってよ。

可愛いもんじゃないか。なぁ?

「そういや、駅前でたこ焼きフェスがあるって言ってたな…」

分かるよ。暑い中、わざわざ駅前まで行って、並んで、買いに行くのは面倒だもんな。

家でたこ焼きフェス出来れば、そりゃそっちの方がお手軽ってもんだ。

「駄目?やっぱり駄目かな?」

「いや、駄目じゃない…んだけど」

問題は、我が家にたこ焼き器がないってことと。

それから、俺自身がたこ焼きを一度も作ったことがないってことだな。

たこ焼き器の問題は、大したことない。買ってくれば済む話。

だが…俺が一度もたこ焼きを作ったことがないという問題は、看過出来ないぞ。

「俺、たこ焼き作ったことないからさ…。見様見真似になると思うけど」

「大丈夫だよ。悠理君のご飯は何でも美味しいから。いつも大好きだよ」

…俺の「料理が」ってことだよな?

まーた、あんたはそんなことばっか言って…。俺の料理褒めてばっかりいたら、実家のお抱え料理人が泣くぞ。

まぁ、いっか。

たこ焼きの材料と、たこ焼き器。両方買ってこよう。

レシピは…適当にネットで調べるかな。

…多分だけど、お好み焼きと似たような要領だと思って良いよな?

「ちょっと待っててくれるか。準備に時間がかかりそうだ」

「うん、分かった。じゃあ…ホラー映画観ながら待ってよーっと」

おい、やめろ。

おもむろにホラー映画のDVDを取り出すな。

最近、ようやく電子レンジと冷蔵庫の化け物のトラウマを忘れかけてきたのに。

「それじゃ、買い物行ってくるよ」

「行ってらっしゃ〜い」

俺は炎天下の中、たこ焼き器とたこ焼きの材料を買いに走った。

我ながら何やってんだろうとは思うが、まぁ寿々花さんが喜ぶなら、それで良いや。