アンハッピー・ウエディング〜後編〜

言いたいことは、山ほどあるが。

まず一番に。

「…寿々花さん!大丈夫か?怪我してないか」

我に返った俺は、いの一番に寿々花さんに尋ねた。

いきなりチャラ男に絡まれて、ただでさえ人見知りの寿々花さんは、怖かったに違いない。

しかし。

「…ふぇ?うん、大丈夫ー」

意外と大丈夫そうだった。

と言うか、目の前の展開があまりに目まぐるしくて、怯えてる暇もなかったって感じか?

良かった。

「ったく悠理兄さんと来たら、もうちょっと考えてから首突っ込みなよ」

呆れた雛堂が、俺に向かって溜め息をついた。

ご…ごめんって。

「イノシシみたいに飛び込んでいくもんだから、こりゃもう止められねぇなと思って、代わりに動画撮ってたんだけど…正解だったな。これ、一応保存しておこっと」

「わ、悪かった…。ありがとう、助かったよ雛堂…」

…って、その前に。

俺は慌てて、先程助けに入ってくれた青年と、そのツレらしき女子高生に振り向いた。

「口ほどにもない三下でしたね」

「結月君、かっこいー!前に私が絡まれた時も助けてくれたよね」

「あぁ、そんなこともありましたね…」

「もー、照れなくて良いじゃん。格好良かったよ。また今度、私があんな風に絡まれてたら、助けてくれるよね?」

「時と場合に寄りますね。すぐに人に頼ろうとするのではなく、まず不用意に他人に絡まれないよう注意して生活してください」

「ひっどい!彼氏なら、そこは『いつでも助けます』って言うところでしょーっ!?」

…えぇっと。お取り込み中のところ、大変申し訳無いんですが。

「あの…さっきは、ありがとうございました」

俺は、その二人組に頭を下げた。

我ながら、考えなしに飛び込んでしまって。

この人達が助けてくれなかったら、どうなっていたことか。

すると。

「別に良いですよ。教室の中で乱闘騒ぎなんて起きたら、文化祭が中止になりかねませんでしたし…」

ぞくっ。

危ねぇ。確かに、そうなってもおかしくなかった。

「それにしても、あなたも考え無しですね。犬でさえ、勝てない相手には喧嘩を売りませんよ?」

「うっ…」

そ、それは…ごもっとも。

言い返す言葉もない。

「咄嗟に動画を撮影したご友人の方が、余程クレバーな判断でしたね」

「す…済みません…」

「まぁまぁ、そんなに責めなくても良いじゃない、結月君。彼氏が自分のこと、身を挺して守ってくれたんだもん。女の子なら誰でも嬉しいはずだよ」

と、ツレの女子高生が宥めた。

…彼氏?

「あなたと来たら、またそんな呑気なことを言って…」

「ほらほら、折角メイドカフェ来たんだから楽しもうよ」

「…分かりましたよ」

はぁ、と溜め息をつく青年。

すると、そこに遅れ馳せながら。

「大丈夫ですか?どうかされました?」

騒ぎを聞きつけたのか、それとも誰かが呼んだのか。

新校舎の男性教師が一人、駆けつけてきた。

「いえ、大丈夫です。何でもありません」

「じゃあね、お二人さん。お幸せに〜」

ひらひらと手を振る、青年と女子高生のカップル。

…何処の誰か知らないが、助かった。