アンハッピー・ウエディング〜後編〜

客席をうろうろと忙しく動き回る寿々花さんを眺めながら。

俺は、ゆっくりとオムライスを平らげた。

凄く美味しい…って訳じゃないが、食べられないほどじゃないし。

しかし、雛堂の方は。

「まずっ…。悠理兄さんのこだわりカレーを食べた後じゃ、レトルトのカレーなんて食えたもんじゃねーな」

ぶつぶつと文句を言いながら、あまりスプーンが進まない様子。

「糠漬けもついてねーしよ…」

「…普通、カレーに糠漬けはついてないだろ…」

『HoShi壱番屋』だけだろ。そんな奇妙な付け合わせがついてるのは。

あと、最近のレトルトカレーは美味しいぞ。文句を言わずに食べろ。

「偉ぶってるけど、新校舎の生徒達も大したことねーな。料理の腕前なら、悠理兄さんの方が遥かに上だべ?」

「それは言い過ぎだっての…。俺のはあくまで家庭料理であって、お洒落な料理を作らせたら…あ」

「あ?」

その時だった。

俺の視線の先で、寿々花さんがお客さんの一人とぶつかった。

これまた大学生くらいの、金髪のチャラ男と。

「おいおい。メイドさん、何処見て歩いてんだ?」

口を尖らせる金髪チャラ男。

ぶつかったって言うか…あんたの方からぶつかっていかなかったか?

見てたぞ。俺。

すると案の定、寿々花さんも。

「今、そっちからぶつかって…」

と言って、当然抗弁しようとしたが。

「お客様に、ご主人様にぶつかっておいて、俺のせいにするのか?」

何だ、このチャラ男。

非常にムカつく。

これはあれか。…いかにもなシチュエーションなのか?そうなのか?

だから、言わんこっちゃないって…。

「相応の詫びを入れてもらわないとなぁ。ちょっと表まで来てもらおうか?」

あろうことか、チャラ男は寿々花さんの手首を無遠慮に掴んだ。

寿々花さんがびくっ、と身体を震わせるのを見て、俺はそれ以上見ていられなくなった。

「あ、あの、お客様。そういうことはちょっと…」

寿々花さんのクラスメイト、一部始終を見ていた別の女子生徒が、寿々花さんを助けようとしたが。

「あ?何だよ。何か文句でもあるのか?」

「っ…」

生粋のお嬢様揃いの女子生徒達は、このようなトラブルには当然、慣れていない。

チャラ男に凄まれて、それ以上何も言い返せずに黙ってしまった。

「来いよ。向こうで話そうぜ」

「え、嫌、手を離し…」

と、寿々花さんが言いかけたその時。

俺は、寿々花さんの手首を掴むチャラ男の手首をガッチリと掴んだ。

…悪いな。

これ以上見ていられないから、乱入させてもらうぞ。

「あーあ…。悠理兄さん、やっちゃったかー…」

雛堂が何やら呟いていたが、やはり当然、俺の耳には聞こえていなかった。