アンハッピー・ウエディング〜後編〜

仮設の厨房で、おっかなびっくりカレーを温め。

シェフご自慢(笑)の糠漬けを添えて。

「あいよー。悠理兄さんのこだわりカレーとオムカレー一丁、お待たせっしたー」

シェフの俺が、それほど緊張しているというのに。

ホール担当の雛堂は、さながらラーメン屋のノリでカレーを提供。

おい。もうちょっと接客態度ってもんがあるだろ。

果たして、小花衣先輩の反応や如何に。

ハラハラしながら、厨房で客席を覗き見る自信のないシェフ。

「何この貧乏臭そうなカレー。やっぱり要らない」と席を立ったらどうしよう、と思ったが。

「まぁ、良い匂い。とっても美味しそう」

小花衣先輩は、嬉しそうに両手を合わせ。

早速プラスチックのスプーンを手に、いざ実食。

…どうだろう?

口に入れた瞬間顔をしかめなかった辺り、一応それほど不味い訳じゃない…と、思われる。

黙々と食べていらっしゃる。

「どうっすか?美味いっしょ?うちのシェフご自慢のこだわりカレー」

ホール担当の雛堂が、無遠慮に小花衣先輩達に尋ねた。

おい、迂闊にそんな危険な質問をするんじゃない。

「そんなに美味しくないわ」とか言われたら、非常に気まずい空気になること間違いなし。

しかし。

「えぇ、とっても美味しいわ」

にっこりと微笑んで、小花衣先輩が答えた。

本当?マジで?本気でそう思ってる?

お世辞とかじゃなくて?

「でしょ?さっきの悠理兄さんが作った、自慢の逸品なんですよー」

「悠理さんって、お料理上手だったのね。私もお料理には心得があるけれど、こんなに美味しいカレーが作れるかしら」

余裕だと思いますよ。市販のルー使ってるだけなんで。

「このお漬物も美味しいわね。ポリポリした食感が楽しいし、カレーによく合うわ」

と、小花衣先輩の従姉妹さん。

マジで?本当に?

うちで漬けた糠漬けなんですけど、それ。本当に美味しいと思ってます?

嘘でもお世辞でも、褒めてもらえると嬉しい。

「でしょー?うちの自慢のシェフが真心込めて作ってるんでね」

雛堂は雛堂で、客に向かって自慢すんのやめろって。

しかし、小花衣先輩達の褒め言葉は、あながちお世辞でもなかったらしく。

カレーも付け合わせの糠漬けも、残さず綺麗に平らげてくれた。

あざっす。

「とっても美味しかったわ。どうもありがとう」

にっこりと微笑んで、完食。

こちらこそありがとうございます。

今日こうして、お二人が来てくれただけで、カレー屋を開いて良かったと思える。

自分の作ったものを美味しいって食べてもらえたら、それ以上嬉しいことはないよな。

「あざーっす。毎度ありー。良かったらお友達やクラスメイトに、『旧校舎のホシイチ美味いよ』って宣伝しといてください」

お会計を担当した雛堂が、また厚かましくも宣伝を頼んでいた。

「ふふ、分かったわ。クラスメイトにおすすめしておくわね」

不躾な雛堂の頼みも、笑顔で快諾。

本当にありがとうございました。またのご来店を…と思ったけど、今日限りの開店だから、またのご来店はないか。