アンハッピー・ウエディング〜後編〜

話したよ。包み隠さず。

女装・男装コンテストの出場者が決まらず、仕方なくあみだくじで決めることになり。

厳正なるあみだくじの結果、俺の意志とは関係なく、俺の意志とは関係なく(←ここ重要)、女装コンテストの出場者に決まってしまったこと。

俺の意志とは関係ないので、何ならまだ女装用の衣装すら用意してなくて、それが憂鬱で溜め息をついていたこと。

ついでに、俺のクラスで予定されているカレー食堂の話もしたよ。

お陰で超忙しいんだってこともな。

カミングアウトと言うより、途中からもう、ただの愚痴みたいになってしまったが。

親切な小花衣先輩は、同情するように頷きながら聞いてくれた。

「…って、感じです」

全てを話し終えると、小花衣先輩は憐れな俺に向かって、

「そうだったの。本意ではなかったとはいえ…またとない経験が出来そうね」

と、非常に前向きなお言葉を賜った。

ポジティブだなぁ…。俺はそんな経験、人生で一度も体験したくなかったけどな。

「それに悠理さん、綺麗なお顔だから、きっと何を着ても似合うと思うわ」

これほど嬉しくない褒め言葉が、他にあるだろうか。

「…そりゃどうも…」

「悠理さんのクラスのカレーショップ、是非行ってみたいわ」

「…御口に合えば良いんですけどね…」

如何せん、手抜き貧乏カレーなんでね。

小花衣先輩みたいな、生粋のお嬢様の口に合うかどうか。

「ねぇ、悠理さん」

「何ですか…?」

「女装・男装コンテストで着る衣装のことだけれど、まだ決まっていないと言っていたでしょう?こんな衣装を着たい、という希望はあるの?」

希望など、一片たりともあるはずがない。

「全く無いですけど…」

「余計なお世話かもしれないけれど、もしこだわりがないようだったら、あなたに貸してあげられそうな衣装があるわ」

何だって?

「去年高校を卒業した従姉妹の制服があるの。背格好が丁度悠理さんと同じくらいだから、ぴったり合うんじゃないかと思って」

これは予想外の、思ってもみない有り難い申し出だった。

女装の為に女モノの服を新着するなんて、そんな無駄遣いは死んでも御免だと思っていた。

誰かから古着を借りることが出来るなら、それに越したことはない。

「そうしてもらえると、物凄く有り難いですけど…。でも、良いんですか?」

一応、従姉妹に許可を取ってからの方が…。

いくら卒業して、もう着ないとはいえ…自分の制服を、何処ぞの馬の骨とも知らない男に貸すなんて。

普通、嫌だと思うのでは?

「おおらかな性格だから、頼めば快く貸してくれると思うわ。良かったら、本人に尋ねてみましょうか」

「お願いします。貸してもらえるなら、是非」

厚かましいお願いだということは、百も承知。

しかし、現状、他に衣装を手に入れられそうなアテもないし。

ここは、是非とも小花衣先輩と従姉妹さんのご厚意に甘えさせてもらいなかった。