アンハッピー・ウエディング〜後編〜

「悪いな…寿々花さん」

「ほぇ?何が?」

「毎日、カレーばっか食べさせて…」

夜は勿論、朝食も、昨日のカレーの余りだったり。

何なら昼のお弁当も、ここ最近は毎日、カレー弁当だった。

三食カレー漬けの毎日で、そろそろカレーにはもう飽き飽きしてるんじゃないかと思う。

作っている俺でさえ、もう飽きてきた。

食べさせられる寿々花さんは、既にカレーの匂いを嗅ぐだけでも、うんざりしてる頃なのではないだろうか。

しかし。

「?毎日三回も美味しいカレーが食べられて、とっても幸せだよ」

無邪気な笑顔で、そう言ってくれた。

それはどうも…。

あんた、飽きるということを知らないのか?

まぁこの人、俺がここに来るまで、毎日レトルト食品とカップ麺を食べ続けてきたらしいから。

一回気に入ったら、毎日三食同じものを食べても飽きないんだろう。羨ましい。

「それに、毎回どれも味が違うんだもん。全然飽きないよ」

「そうか…」

「あと一ヶ月くらい、毎日カレーでも良い」

ありがとうな。

でも、それは俺が嫌だよ。

そろそろ違うもの食べたい。毎日辛いものばっかだから、甘いものを食べたい気分だよ。

…それで。

色々試すのは良いけど、肝心なことはだ何も決まっていない。

毎日カレーを作り続けて、一週間が経って。

ここいらで一度、振り返ってみるべきだろう。

「なぁ、寿々花さん。この一週間で、色んな種類のカレーを試してもらったけど…」

「うん」

「どれが一番美味しかった?どのカレーが売れると思う?」

「どれもとっても美味しかったよ。どれでも売れると思う」

寿々花さんは目をキラキラさせて、無邪気にそう答えた。

お世辞で言ってるんじゃない。本気でそう思ってるんだろう。

嬉しいけど、でもそれじゃあ駄目なんだよ。今回は。

どれも美味しかったってことは、どれも似たような味ばっかで、特徴がなかったってこと?

あんなに色々作ったのに?それはそれで悲しいぞ。

「その中でも、特に美味しかったのはどれだ?」

「特に…?うーん、どれも美味しかったけどなー…」

「それじゃあ、えーと…特に思い出に残ってるのはどれ?」

「どれもとっても大切な思い出だよ。悠理君と過ごす毎日の思い出は、どれも私の宝物だもん」

…あ、そう。

なんか、良いこと言ってるように見えて、会話になってないんだけど?

つまり、どれも思い出には残ってないってこと?

「せめて…どれか一つ選んでくれよ。これなら『星見食堂』…いや、『HoShi壱番屋』の看板メニューに相応しい、っていう一品を…」

「それ、お店の名前なの?格好良いねー」

「俺が考えたんじゃないけどな…」

つーかパクリだから。オリジナルでも何でもないから。

それより、一番美味しかったカレーを早く決めてくれ。

それを看板メニューにしようと思う。