アンハッピー・ウエディング〜後編〜

…と、いう訳で。

それから毎日、俺はカレー作りの練習をすることにした。

家庭の味…とはいえ、さすがに店を出して金を取るなら、いつもの手抜きカレーじゃいけない気がして。

かと言って、市販のカレールーを使わず、数種類のスパイスを独自配合したオリジナルカレー…というのもハードルが高過ぎる。

別の種類のカレー粉を複数組み合わせたり、そこにクミンやコリアンダーなどの、普段は手が出ないスパイスを足してみたり。

具材の切り方を変えてみたり、隠し味にハチミツやチョコレートを一欠片加えてみたり。

とにかく、色々試してみることにした。

カレー屋のシェフかよ。俺は。

で、そんな試作カレーの試食を引き受けてくれるのは。

「はい、寿々花さん。ちょっとこれ、食べてみてくれ」

「わーい。良い匂い。カレーだー」

勿論、我が家のお嬢様、寿々花お嬢さんである。

自分でも味見はしてるんだけどさ。

色々試し過ぎて、なんかもうどれを味見しても、違いが分からなくなってきた。

「色んなカレーを試したくてな…。文化祭まで、しばらく夕飯毎日カレーになるけど、我慢してくれ」

毎日カレーとか、地獄かよ。…と。

言われると思いきや、むしろ寿々花さんは嬉々として。

「わーい。毎日悠理君のカレーだ。やったー」

諸手を挙げて喜んでいた。

寿々花さんの子供舌に、これほど助けられる日が来るとは。

俺は寿々花さんの前に、炊きたてのご飯と、それからカレールーをちょっとずつ入れたお椀を、順番に並べた。

わんこそばみたいだな。

「まずこれが、隠し味にチョコレートを入れたカレー」

「もぐもぐ…。いつもとあんまり違いが分からないけど、美味しい」

チョコレート一欠けくらいじゃ、味に大した変化はないか。

ならば。

「こっちが、B社辛口とG社辛口のカレー粉半々で作ったカレー」

「もぐもぐ…。ちょっと辛いけど、美味しい」

やっぱり、両方辛口のカレー粉を組み合わせると、結構辛いな。

子供舌の寿々花さんには、辛い味かも。

ならば。

「じゃあこっち。ヨーグルトをたっぷり入れて、マイルドに仕上げたバターチキンカレー」

「もぐもぐ…。美味しいけど、今度はちょっと甘いかな…?」

辛過ぎるのは良くないが、逆に甘過ぎても良くない。

ここに糠漬けを添える訳だからな。糠漬けにも合うカレーを考えなくては…。

ならば。

「今度は、じゃがいもの代わりに里芋を使って、昆布出汁を隠し味に入れた和風カレーだ」

「もぐもぐ…。里芋がほくほくしてて美味しい。煮物みたいだねー」

煮物みたい…ってことは、カレーっぽくないってこと?

それはそれで問題だよな…。

ならば。

「最後にこれ。温玉、チキンカツ、素揚げしたかぼちゃとパプリカを乗せた、肉倍量超豪華版カレー」

「もぐもぐ…。具がいっぱいで美味しいね。贅沢なカレーだー」

贅沢だけど、その分めっちゃ手間がかかった。

カレーのレシピもそうだけど、トッピングのメニューもちゃんと考えないとな…。

ある意味、カレーそのものより手間がかかるぞ。